脳性麻痺児におけるリーチ動作中の姿勢制御について

DOI
  • 泉 圭輔
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻理学療法学講座
  • 大畑 光司
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻理学療法学講座
  • 古谷 槙子
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻作業療法学講座
  • 澁田 紗央理
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻理学療法学講座

抄録

【目的】<BR>脳性麻痺児において,姿勢制御能力の低下は,運動機能や日常生活動作を制限する一つの因子となることが知られている。一般に,姿勢制御には,方向特異性と姿勢に応じた姿勢筋筋活動の微調整との2つのレベルが存在するとされる。方向特異性とは,後方に倒れそうになった時に前面の筋が働くというように方向に応じた筋活動が見られる現象であり,姿勢筋筋活動の微調整とは,その倒れている角度に応じて筋活動量の大きさを調整する性質のことである。軽症である歩行可能な脳性麻痺児の姿勢制御においては,方向特異性は認められるものの,姿勢筋筋活動の微調整は困難であるとされている。しかし,姿勢制御能力が運動機能に特に関係すると考えられる,より重度な脳性麻痺児における研究は少ない。そこで,本研究の目的は,リーチ動作を行う際の筋活動により,脳性麻痺児の姿勢制御の特性について調べることである。<BR>【方法】<BR>対象は,脳性麻痺および運動発達遅滞の診断を受けた総合支援学校に通う11名(明確に脳性麻痺と診断を受けた者9名,運動発達遅滞2名:平均年齢13±3.6歳,男児5名,女児6名:GMFCSII2名,III2名,IV5名,V2名)とした。また,コントロール群として,健常成人男性10名(平均年齢26.1±5.8歳)にも同様の測定を行った。表面筋電図および動作の開始の測定には,DelSys社製3軸加速度筋電計Trigno Wireless System を用いた。得られた表面筋電図は,すべて10msの二乗平均平方根にて平滑化した。リーチ動作は,座位保持装置にて,背もたれにもたれた姿勢を開始肢位とし,5秒程度の安静の後,提示される対象物に対して体を起こしてリーチすることとした。対象物の提示位置は,正中線上かつ上肢長の110%の距離で,肘の高さに来るように設定した。測定筋は,頸部屈曲・伸展筋として,胸鎖乳突筋,僧帽筋,体幹部屈曲・伸展筋として,腹直筋,腰部脊柱起立筋の4筋とした。解析には,僧帽筋の部位につけた加速度計の値から動作開始(頸部の動きだし)を判定し,その前後1秒間を用いた。筋活動の開始は,開始肢位の安静時の平均値に2SDを加えた値を超えた時点とした。まず,方向特異性の有無を検証するために,背もたれの傾斜角度60度でのリーチ動作を行った。頸部,体幹部のそれぞれについて,1.腹側の筋の筋活動があり,背側の筋の筋活動がない場合と2.腹側の筋の筋活動が背側の筋の筋活動より先に生じる場合のとき,方向特異性が認められるとした。次に,姿勢筋筋活動の微調整を検証するために,背もたれの傾斜角度は80度,60度,45度と変化させ,開始肢位を3条件にした。姿勢筋筋活動の微調整の解析には,頸部の動作開始の-100msから400msまでの腹側体幹部の筋活動量の積分値を用いた。統計解析には,3条件間における腹側体幹部の姿勢筋筋活動量の違いについて,Friedmanの検定を行った。<BR>【説明と同意】<BR>本研究は総合支援学校との共同研究として行われ,研究の参加については対象者の保護者に対して,文書にて同意を得た。<BR>【結果】<BR>健常成人では,60度条件において,ほぼ全員の頸部,体幹部の方向特異性が認められた。また,腹側体幹部の姿勢筋筋活動量について, Friedmanの検定の結果,80度条件14.7±18.4μV,60度条件80.1±78.9μV,45度条件67.3±56.8μVとなり,有意な差が認められた。<BR>一方,脳性麻痺児の中では,60度条件で,頸部の方向特異性が認められたのが4名(GMFCSII2名,III1名,V1名),体幹部の方向特異性が認められたのが4名(GMFCSII1名,III1名,IV1名,V1名)であり,それ以外の者では方向特異性が認められなかった。方向特異性が認められた計5名において,3条件間の腹側体幹部の筋活動量に,有意な差は認められなかった。リーチ達成率の高い者においては,方向特異性および姿勢筋筋活動の微調整が認められる傾向にあった。<BR>【考察】<BR>背もたれが倒れた状態からのリーチ動作において,健常成人では,方向特異性と姿勢筋筋活動の微調整がともに認められた。このことから,本測定方法は,方向特異性と姿勢筋筋活動の微調整を検討するために,妥当性があると考えられる。一方,脳性麻痺児では,先行研究と異なり,方向特異性が認められない者がいた。方向特異性が認められない者は,GMFCSIV,Vレベルの者が多いことから,方向特異性と運動機能は関連があることが推察された。また,3条件間の比較から,方向特異性が認められる者においても,姿勢筋筋活動の微調整は認められないことが明らかとなった。脳性麻痺児の中で,方向特異性を持ち,かつ姿勢筋筋活動の微調整が可能な者は,リーチの達成率が高く,運動機能が高いことが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>比較的重度な者を含む脳性麻痺児における姿勢制御能力について明らかにすることは,座位等の姿勢保持トレーニングを行っていく上で,重要な情報となりうると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BbPI1137-BbPI1137, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550155904
  • NII論文ID
    130005016803
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.bbpi1137.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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