若年女性における腹圧性尿失禁を予防・改善するためのトレーニング法の検討
書誌事項
- タイトル別名
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- ─骨盤底筋トレーニングと腹横筋トレーニングのどちらが有効か?─
説明
【はじめに、目的】 近年、出産経験のない若年女性においても24%の割合で腹圧性尿失禁がみられることが報告されている(森ら,2011)。腹圧性尿失禁の発生には骨盤底筋の機能低下が関連していることから、腹圧性尿失禁の予防や治療として骨盤底筋トレーニングがよく用いられている。一方で、近年では腹横筋の機能低下も腹圧性尿失禁の発生リスクとして注目されている。しかし、腹横筋トレーニングと骨盤底筋トレーニングのどちらを実施したほうが尿失禁に有効であるかを検討した報告はみられない。そこで、本研究は若年女性を対象に腹圧性尿失禁に対するトレーニングとして骨盤底筋トレーニングおよび腹横筋トレーニングを実施し、その効果を検討することを目的とした。【方法】 出産経験のない健常若年女性31名(平均年齢21.1±1.2歳)を対象とした。骨盤底筋の機能評価は超音波診断装置を用いて、背臥位および立位で骨盤底筋を意識的に収縮させたときの骨盤底(膀胱底部)挙上量(mm)および運動負荷時(背臥位で20°下肢伸展挙上SLRを2kgの重錘負荷をして実施)の骨盤底挙上量を測定した。超音波のプローブを臍から10cm下方部にあて、水平面に対し頭側へ約60°傾斜させて測定した。骨盤底筋を意識的に収縮させるときには、「尿を我慢するときのように」と口頭指示を与えた。なお、測定の1時間前に排泄後500mlの水を飲んでもらい、蓄尿した状態で測定を行った。腹横筋の機能評価は超音波診断装置を用いて、背臥位で腹横筋を意識的に収縮させたときの腹横筋の筋厚増加量(収縮時-安静時;mm)および運動負荷時(重錘負荷でのSLR)の腹横筋の筋厚増加量を測定した。腹横筋を意識的に収縮させるときには、「おへそを引っ込めるように」と口頭指示を与えた。また、尿失禁の頻度や量、誘因に関する自覚的評価表(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form;ICIQ-SF)により尿失禁の評価をおこなった。対象者を無作為に骨盤底筋トレーニング群11名、腹横筋トレーニング群10名、コントロール群10名の3群に分類した。両トレーニング群には、座位・四つ這い位・背臥位それぞれの肢位で、2~3秒間の短い収縮を10回、6~8秒間の長い収縮を10回行うよう指導した。トレーニングは週3~4回、計4週間実施した。3群における各項目の介入前後での変化量を分散分析および多重比較法にて比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に本研究の十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 分散分析の結果、介入前後での変化量の中で背臥位で意識的に収縮させたときの骨盤底挙上量および運動負荷時の骨盤底筋挙上量で群間の有意な違いがみられた。多重比較の結果、背臥位での骨盤底挙上量の変化量はコントロール群と比較して骨盤底筋トレーニング群および腹横筋トレーニング群は有意に大きい値を示したが、骨盤底筋トレーニング群と腹横筋トレーニング群の間に有意差はみられなかった。また、運動負荷時の骨盤底挙上量の変化量はコントロール群と比較して骨盤底筋トレーニング群および腹横筋トレーニング群は有意に大きい値を示したが、両トレーニング群間に有意差はみられなかった。また、ICIQ-SFスコアの変化量については3群間に有意差はみられなかった。【考察】 本研究の結果、骨盤底筋トレーニング群と腹横筋トレーニング群ともに、コントロール群と比較して背臥位および運動負荷時の骨盤底挙上量の変化量が有意に大きかった。このことから、骨盤底筋トレーニングと腹横筋トレーニングのいずれも骨盤底筋機能を向上させる効果があり、両トレーニング法に効果の違いはみられないことが示唆された。しかし、尿失禁の自覚的症状については両トレーニング群ともに改善がみられなかった。この理由としてまず介入期間が4週間と短かったことが考えられる。また、今回の対象者は出産経験のない若年女性で重度の尿失禁を有する者が少なかったため、尿失禁の自覚的症状の改善が得られにくかったことも考えられる。さらに、尿失禁改善のためには、立位時の骨盤底筋機能や腹横筋機能も重要であるが、今回これらの項目には変化がみられなかったため、尿失禁の改善には至らなかったのかもしれない。今後、運動内容についてのさらなる検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 今回、骨盤底筋トレーニングと腹横筋トレーニングのいずれも骨盤底筋機能を向上させる効果があり、両トレーニング法に効果の違いはみられないことが確認された。本研究結果は腹圧性尿失禁を予防・改善するためのトレーニング法を確立するうえでの一助になると考えられる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Cb1166-Cb1166, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550163456
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- NII論文ID
- 130004693133
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可