パーキンソン病の随意的咳嗽についての表面筋電図を用いた一考察

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抄録

【目的】 パーキンソン病(PD)の最多死因は肺炎である。他疾患においては、咳嗽能力には肺活量や吸気筋力等が重要視されているが、PDにおいてはその疾患の特徴から、構築学的所見のみでは咳嗽能力の低下が証明できないと考える。そこで、表面筋電図(SEMG)を用いて、咳嗽時の呼吸補助筋の働きについて調査を行った。<BR>【方法】 当院入院中のPD患者27名(PD群)と成人男性16名(対照A群)、脊髄を除く明らかな中枢神経疾患を有さない老年男女29名(対照B群)を対象とした。PD群は男性15名、女性12名、平均年齢73.9(61~85)歳で、Hoehn-Yahr stageは、II:2名、III:14名、IV:9名、V:2名、UPDRSは平均57.8(25~109)点、FIMの運動項目は平均58.4(13~89)点であった。対照A群の平均年齢は28.2歳であった。対照B群は、男性14名、女性15名、平均年齢77.8(62~86)歳で、FIMの運動項目は平均65.7(25~91)点であった。<BR> 測定項目は、PD群と対照A群はSEMGを装着してのCough Peak Flow(CPF)を、対照B群はCPFのみとした。<BR> SEMGの電極貼り付け位置は、PD群では症状の重症な側、対照A群では非利き手側の、広背筋(Ch1)、内外腹斜筋(Ch2)、胸鎖乳突筋(Ch3)、肋間筋(Ch4)とした。姿勢は全足底接地が可能な椅子座位とし、端座位が不可能な者のみ背もたれの使用を許可した。測定は、1.30秒以上の安静座位保持、2.験者がEMG上にトリガーを入れると同時に出す「はい」の合図(cue)で開始する最大吸気後の咳嗽(pre CPF)3回、3.被験者のタイミングで開始した最大吸気後のプラトー時に、験者が出すcueで開始する咳嗽(post CPF)3回とした。2.3.の測定の間隔はそれぞれ10秒以上とし、疲労の無いことを確認して実施し、結果は最大値を採用した。<BR> SEMGの生波形は、全波整流後RMS値を算出し、cueから安静時最大振幅(1.の中間10秒間の心電図波形を除いた最大値)を越えるまでの時間(pre-motor time:PMT)、安静時最大振幅を越えた時から咳嗽時最大振幅までの時間(motor time:MT)、cueから咳嗽時最大振幅までの時間(reaction time:RT)を各Chで求めた。<BR> 得られた結果は、SPSS11.5を用いて各検定を実施し、結果はp<0.05をもって有意とした。<BR>【説明と同意】 研究への参加は、ヘルシンキ宣言に則り紙面を用いて説明し、署名にて同意を得た。<BR>【結果】 PD群と対照A群のCPFは、Shapiro-Wilk検定により正規分布に従わないことが確認された。<BR> pre CPFの中央値はPD群:170L/分、対照B群:220L/分と有意差を認めた。また、pre CPF のPD群(PD pre)と対照A群(対照pre)、post CPFのPD群(PD post)と対照A群(対照post)の4群の中央値は、PD pre:170L/分、対照pre:375L/分、PD post:190L/分、対照post:490L/分であり、Kruskal Wallis検定にて有意差を認めた。<BR> pre CPFおよびpost CPFの PMTは、4つのChそれぞれにおけるPD群と対照A群のMann-Whitney検定の結果、Ch2における中央値がPD pre:1.564秒、対照pre:0.716秒、およびPD post:0.264秒、対照post:0.037秒と有意差を認めた。<BR> MTは、4つのCh全てにおいて、それぞれ4群間のKruskal Wallis検定にて有意差を認めた。<BR> 各被験者における4つのChの最大RTと最小RTの差は、中央値がそれぞれ、PD pre:1.015秒、対照pre:0.218秒、PD post:0.435秒、対照post:0.232秒であり、Kruskal Wallis検定で有意差を認めた。<BR>【考察】 PD患者のCPFについて、肺活量や呼吸筋力に加え、寡動、無動、協調運動が重要であると考えてきた。今回の調査から、PMTはPD preが対照preより、PD postが対照postより長く、MTはPD preが対照postより長いことが示され、PD患者では、吸気から呼気への変換の非円滑性と、咳嗽開始後に最大振幅に達するまでの時間が延長していることが示唆された。さらに、PD preにおける各被験者内の最大RTと最小RTの差が、対照preや対照postより大きい事から、呼吸補助筋の協調性収縮の障害が、CPFの小ささにつながると考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】 PDの咳嗽能力向上には、筋力や可動性のみならず、吸気から呼気への変換運動や、呼吸補助筋の協調性収縮などのアプローチが重要であると考えた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI1377-DbPI1377, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550233856
  • NII論文ID
    130005017469
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.dbpi1377.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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