中学生・高校生における骨盤・体幹回旋最大角速度と球速の関係
説明
【はじめに、目的】 成長期の野球選手において肩・肘関節の障害は多く、原因として、運動機能の成熟度・投球技術の習熟度の低さなどが挙げられている。投球技術においては下肢からの運動連鎖を使えず、体幹・上肢に依存した投球動作になっていることが考えられている。そこで今回は、骨盤と体幹の回旋運動と球速を測定し、比較を行うことで、骨盤回旋運動から体幹回旋運動への運動連鎖、さらにそれぞれの運動が球速にどれほどの影響を及ぼしているのかを検討することを目的とした。【方法】 群馬県内の中学軟式野球部に所属する選手5名(13.4±0.5歳)と県内の中学硬式野球チームに所属する選手1名(13歳)、高校硬式野球部に所属する選手6名(17.2±0.8歳)を対象に三次元動作解析装置(VICON612)による投球動作の撮影、スピードガン(ユピテル社製MST-1)による球速の測定を行った。測定前に十分なwarming upを行い、測定室内に設置した約3m先の防球ネットの的(30cm)に向かい、セットポジションから全力で5球投球することを指示した。三次元動作解析装置のサンプリング周波数を60Hzとし、赤外線反射マーカーは両側肩峰・右肘頭・L5・両側ASIS・両側膝関節裂隙・両側足関節外果の計10個貼付した。また、高速度カメラ(CASIO EX-F1)を用い、サンプリング周波数を300Hzにて斜め40°前方から投球を撮影し、投球を1.toe off(以下、TO)、2.foot plant(以下、FP)、3.maximum external rotation(以下、MER)、4.ball release(以下、BR)の4相に分けた。同時に、三次元動作解析装置に同期されている床反力計(AMTI)をサンプリング周波数600Hzに設定し、TOの時点で高速度カメラと同期した。また、スピードガンは防球ネットの20°斜め後方に設置した。解析は、両側ASISを結ぶ線と投球方向への軸となす角度を骨盤回旋角度、両側肩峰を結ぶ線と投球方向への軸となす角度を体幹回旋角度とし、5球全ての骨盤・体幹回旋角度を算出した。算出された骨盤・体幹回旋角度より、それぞれの1コマ毎の回旋角速度を算出した。回旋角速度と球速の相関はSpearmanの順位相関係数を用い、有意水準を1%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者と親権者に研究の趣旨及び方法を説明し、同意を得た上で測定を行った。研究を行うにあたり、群馬大学大学院医学系研究科臨床研究倫理委員会による承認を得ている。【結果】 骨盤回旋最大角速度はFP~MER間で、体幹回旋最大角速度はMER前後でほとんどの選手にみられた。中学生の骨盤回旋最大角速度と球速の間にはr=-0.375/p=0.041とやや負の相関がある傾向がみられた。体幹回旋最大角速度と球速の間にはr=0.64/p=0.0001と高い相関がみられた。高校生の骨盤回旋最大角速度と球速の間にはr=0.321/p=0.089と有意な相関はみられなかったが、体幹回旋最大角速度と球速の間にはr=0.636/p=0.0002と高い相関がみられた。全体としては、骨盤回旋最大角速度と球速の間にはr=-0.148/p=0.262と相関はみられず、体幹回旋最大角速度と球速の間にはr=0.518/p=0.00002と高い相関がみられた。また、骨盤回旋最大角速度と体幹回旋最大角速度との間には相関はみられなかった。【考察】 骨盤回旋最大角速度と球速の関係については、中学生では回旋角速度が上昇すると球速は減少するという負の相関傾向を示したが、高校生においては正の相関傾向を示した。また、体幹回旋最大角速度と球速の関係においては、中学生・高校生それぞれで高い相関がみられたこと、骨盤回旋最大角速度と体幹回旋最大角速度との相関がなかったことより、中学生は高校生に比べ、下肢からの運動により伝えられた力を体幹・上肢へより伝えることができておらず、体幹回旋運動から生じる力に球速は依存していることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 過去の報告において、小・中学生、高校生は骨盤の開きが早い傾向にあり、体幹・上肢に依存した投球動作になると考えられていたが、今回の結果においても、特に中学生において体幹回旋運動に依存した投球になっていることが示唆された。今後、身体機能面による回旋運動への影響との検討も進めていくことで、成長期の投球障害の予防活動へつなげられると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Cb1158-Cb1158, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550253568
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- NII論文ID
- 130004693125
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可