身体部位描画課題とボディイメージの関連について
書誌事項
- タイトル別名
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- 機能的MRIを用いた脳内メカニズムの検討
説明
【目的】右頭頂葉損傷による左半側空間無視(USN)を主症状とする患者に、全身の自画像描画課題を行わせると、左右の逆転や麻痺側身体部位が欠落した、不完全な自画像を描くことが観察される(山手ら2008)。これは、これらの患者は自己の身体像の認識に障害があり(ボディイメージの障害)、描かれた自画像にはその患者のボディイメージ障害の程度が反映されていると考えられる。これまで、自画像とボディイメージの関係については、USN患者のボディイメージには想起下でも無視が生じることを、自画像描画課題を開眼・閉眼で実施して報告した研究(Morioka et al.,2005)や、幼児期のボディイメージを幼児の描く人物画と幼児の運動発達との間の相関で報告した研究(田中ら2003)がある。しかし、自画像描画課題における脳内メカニズムそのものについての研究はなく、自画像描画とボディイメージの関連性は、脳機能の観点からはまだ明らかではない。本研究では、「自画像描画は、ボディイメージを反映している。」という経験的事実を、健常者を対象に、身体部位の描画課題遂行中の脳活動を機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を用いて計測・分析することで、脳活動の観点から実証することを目的とする。<BR>【対象と方法】被験者は右利きの健常成人18名(男性7名,女性11名,平均年齢22.7歳)。なお、このうち2名(男性1名,女性1名)は、撮像中の頭部の動きが大きかったため、分析から除外した。以下の課題では、眼前のスクリーン上に課題遂行に必要な教示と刺激が呈示された。また、被験者は必要に応じて右手に持ったペンマウスを操作して同じスクリーン上に呈示される軌跡を確認しながら描画した。1)「描く」課題:単語で呈示される身体部位および物を想起しながらその絵を描く。2)「模写」課題:写真で呈示される身体部位および物を見ながらそれを模写する。3)「イメージ」課題:単語で呈示される身体部位および物を想起する。4)「見る」課題:写真で呈示される身体部位および物を見る。課題条件は、各課題で身体部位条件と物条件を設定するため4×2の8条件となり、全ての条件を5回実施する。なお、「描く」課題、「イメージ」課題の身体部位条件では、自己の身体部位を想起することを予め被験者に指示している。課題手順は、まず4秒間「描く」など被験者が行う課題が文字で呈示される。その後、画面が切り替わり、刺激が16秒間呈示される。被験者は16秒間で教示に従い課題を遂行する。16秒間の課題遂行時間が終了し注視点が呈示されると、被験者は速やかに課題を終了し、安静状態をたもった。撮像には、Siemens Symphony 1.5Tを使用し、データ解析には、Matlab上で作動するSPM5を使用した。各被験者の解析後、集団解析を行い差分法により課題の主効果を有意水準0.001(uncorrected)により検出した。<BR>【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に沿って実施され、日本大学医学部倫理委員会の承認を得ている。また、すべての被験者に口頭と文書による説明を行い、文書による同意を得て実施した。<BR>【結果】「模写」課題および「描く」課題において、身体部位条件と物条件を比較したとき、右下頭頂小葉が身体部位条件で強く活動していた。しかし、物条件で強く活動する部位はなかった。また、「描く」課題の身体部位条件と「模写」課題の身体部位条件の比較では、左下前頭回、左中前頭回が「描く」課題でより活動していた。さらに、「イメージ」課題では、物条件と比較して身体部位条件においてのみ、右下頭頂小葉および左頭頂弁蓋部が活動していた。<BR>【考察】「描く」、「模写」、「イメージ」のいずれの課題においても、身体部位条件で右下頭頂小葉の活動が認められた。これは、描画課題において、ボディイメージが右下頭頂小葉で処理されていることを示唆している。したがって、USNを主症状とする右下頭頂小葉損傷患者での不完全な自画像描画の原因は、下頭頂小葉のボディイメージ処理機能の障害と考えられる。また、想起下で身体部位を描く条件で左下前頭回、左中前頭回が活動していたが、物を描く条件では活動しなかったことから、想起下で身体部位を描く際には、なんらかの言語的な処理を同時に行い、課題を遂行していることが考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】これまで、自画像がボディイメージを反映する可能性について議論されてきたが、本研究によって、ボディイメージと関連するといわれる下頭頂小葉が身体部位の描画課題遂行時に活動していることが明らかになった。以上のことから、本研究は臨床で自画像描画課題を実施し、その結果から患者のボディイメージを評価できる可能性を示唆するものである。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), AeOS2006-AeOS2006, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550262656
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- NII論文ID
- 130005016765
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可