筋力トレーニング・筋持久力トレーニングが骨格筋脱酸素化レベルに及ぼす影響
説明
【はじめに】 骨格筋での酸素拡散勾配などの骨格筋因子は,運動時間や最高酸素摂取量(peak VO2)のような運動耐容能の重要な制限因子のひとつである.また,酸素拡散勾配を形成する上で骨格筋での酸素消費が重要である.従って,骨格筋の酸素消費能を向上させることで運動耐容能の向上が期待できる. 骨格筋の酸素消費能は,近赤外線分光法(NIRS)を用いて非侵襲的,連続的に評価することが可能である.これまでNIRSを用いて様々な形態の運動中の骨格筋の酸素動態が検証されてきた.しかし,骨格筋に対するトレーニングが酸素動態に及ぼす効果を検証しているものは散見される程度である. 本実験では,6週間の筋力トレーニングと筋持久力トレーニングが骨格筋脱酸素化レベルに及ぼす影響を比較することを目的とした.【方法】 19人の健常若年男性を無作為にコントロール群(n=7,CON群),筋力トレーニング群(n=6,STR群),筋持久力トレーニング群(n=6,END群)に振り分けた.トレーニングにはCybex Norm 770を使用し,トレーニング対象筋は非利き足の膝関節伸筋群とした.トレーニング強度は,STR群では60°/sec×10回×5セット,END群では240°/sec×持久力回数×2セットとし,各トレーニングを3日/週, 6週間行った.CON群には通常の日常生活を継続するように指示した. 骨格筋脱酸素化レベルの測定のため,トレーニング期間の前後に,自転車エルゴメーターを用いて20W/分のramp負荷運動を実施した.運動前に大腿動脈阻血法にてキャリブレーションを行い,運動中のDeoxy-Hb/ Mbの変化量から骨格筋脱酸素化レベルを算出した.被検筋は非利き足の外側広筋とした.ramp負荷運動から1週間程度の間隔を設け,筋力・筋持久力評価をCybex Norm 770を用いて行った.角速度は筋力評価で60°/sec,筋持久力評価で240°/secとした.筋力評価では3回測定し,その中の最高値を最大筋力として採用した.筋持久力評価では60回の膝伸展を行わせ,前半30回の総仕事量と後半30回の総仕事量の比を筋持久力指数として採用した.また,筋持久力評価の際,最初の3回の最高仕事量の1/2の仕事量となる回数を持久力回数として算出し,END群のトレーニング回数として利用した. 統計学的分析として,各測定値のトレーニング前後とトレーニング種類による交互作用を検出するために二元配置分散分析を用い,下位検定として,各トレーニング群のトレーニング前後の比較に対応のあるt検定を用いた.有意確率は5%未満とした.【倫理的配慮】 本実験は各被験者による書面での同意と金沢大学医学倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 トレーニング回数はSTR群で15.7±1.6セッション,END群で16.3±1.6セッションであった.トレーニング前の各測定値は3群間で差は認められなかった.トレーニング後,STR群では筋力が増加傾向を示した(p=0.09)が,筋持久力には変化が認められなかった.一方,END群では筋持久力が有意に向上した(p<0.01)が,筋力には変化が認められなかった.脱酸素化レベルは両トレーニング群でトレーニング後に有意に向上(p<0.05)した.CON群ではいずれの測定値にも変化が認められなかった.【考察】 本実験で用いたトレーニングにより,骨格筋に対しトレーニング特性に基づいた効果が認められた.本実験では,両トレーニング群において骨格筋脱酸素化レベルの有意な向上を認めた.先行研究ではトレーニング前後で外側広筋の骨格筋脱酸素化レベルに変化がなかったと報告されているものもあるが,本実験では先行研究に比べトレーニング回数が多かったこと,より大腿部の筋に焦点を当てたトレーニングを採用したことなどから外側広筋の脱酸素化レベルが向上したものと考えられる. 骨格筋に対するトレーニングにより骨格筋脱酸素化レベルが向上する理由としてミトコンドリア含量や酸化酵素活性の改善などが考えられる.持久力トレーニングに関しては骨格筋酸化能の向上が多く報告されている.筋力トレーニングに関してはミトコンドリア含量や酸化酵素活性の改善に否定的な意見が多かったが,近年,筋力トレーニングにより骨格筋酸化能の向上が認められることも報告されており,本実験の結果もこれを支持する結果であった.【理学療法学研究としての意義】 酸素拡散勾配の改善に伴いpeak VO2や運動時間などの運動耐容能の指標にも改善が認められた可能性がある.安静度の制限など,全身的な持久力運動が困難な患者でも日常的に行われている筋力強化・筋持久力強化運動により運動耐容能が改善する可能性が示唆された.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Ae0084-Ae0084, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550266624
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- NII論文ID
- 130004692644
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可