高位不全脊髄損傷に対するロボットスーツHAL福祉用を用いた歩行訓練
書誌事項
- タイトル別名
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- ─症例報告を通しての一考察─
説明
【はじめに、目的】 歩行障害を有する方へのロボット技術を用いた歩行支援機器が臨床で運用され始めている。中でも国内で唯一市販化されているロボットスーツHAL福祉用(以下HAL; CYBERDYNE株式会社)は動作時に生じる生体電気信号を基に立ち座り、歩行動作支援等を行う福祉機器であり、その運用方法が注目されている。本研究では、高位頸髄損傷不全麻痺の症例に対して、HALの具体的な運用面に考慮しながら段階的な歩行訓練を実施し、歩行能力の変化を認めた結果を報告する。【方法】 症例は60代男性で2009年2月に自転車から転倒し、近院へ救急搬送され、第3頸椎から第7頸椎固定拡大術を行ったが四肢麻痺(下肢ASIA分類D)が残存した。麻痺は左に比べ右側優位だった。回復期リハビリテーション病院での治療が終了後、屋内伝い歩き見守り、屋外歩行器歩行見守りレベルで自宅退院となったが、週2回、歩行訓練を中心に通所リハビリテーションを継続した。本研究の介入が始まった2010年12月の時点では、屋内伝い歩きは自立して可能、屋外移動は左側支持のロフストランド杖歩行が見守りで可能であったが主に車椅子を使用していた。歩行時は、右足Toe Clearance不良のため、Gait Solution Design(川村義肢)を用いていた。当該症例に対してHAL FIT(茨城県つくば市)で実施したHALによる5回の歩行訓練の経過を通して、その運用方法を検討した。訓練は、理学療法士が担当し、おおよそ週1回、90分の介入を行った。歩行能力評価項目として、10mテスト、映像による歩行分析を用いて、HAL装着訓練時と訓練前後の変化を検討した。また各訓練後に独自に作成したアンケートを行い、訓練継続に伴うトレーニングの印象、アシスト、使用効果に関する主観的評価についても分析を試みた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の主旨及び被検者の意思により研究参加の拒否が可能である旨を説明し、同意を確認後、研究を行った。【結果】 訓練1回目から5回目にかけて、運用時の考慮点は、装着時のフィッティング具合、アシスト設定、目標設定、訓練内容、自主訓練指導内容であった。訓練内容は、Andreaらの方法を参考に、段階的に平行棒歩行訓練から開始し、3回目以降、免荷歩行訓練を実施した。歩行能力は、2回目訓練前後では、0.48m/secから0.52m/secと速度増加を認めた。初回装着前と5回目訓練後を比べると、0.46m/secから0.76m/secと歩行速度の増加を認めた。また安静時の歩行速度、歩幅について初回装着前と5回目装着前を比べると、0.46m/secから0.63m/sec、31.95cmから45.45cmと増加を認め、訓練を重ねるにつれ歩行能力の向上を認めた。映像による動作分析では、初回と5回分の訓練経過を比較すると、HAL装着時と訓練後において、遊脚期での右股関節屈曲角度増大、立脚期での右膝二重膝作用の出現、右下肢の荷重時間の延長等、歩行動作の改善を認めた。アンケート結果は、トレーニング時の印象は「良い」、使用効果は「あり」と常に肯定的な回答となり、初回時のアシストに関して「よく分からない」との回答だったが、2回目以降は、「すごく感じる」または「まあまあ感じる」と肯定的な回答となった。また自由記載では、「右へもっと体重を掛けたい」など自らの運動方法の認識に関する内容が多い傾向となった。また本研究中に実施した全ての訓練に於いて有害な事象や機器の不具合は認められなかった。【考察】 本研究では、高位頸髄損傷不全麻痺の症例にHALを用いて、装着フィッティング、アシスト設定、目標設定、自主訓練指導に考慮しつつ段階的な免荷歩行訓練を実施し、歩行能力の向上を認めた。またアンケート結果から、症例自身が、訓練結果への肯定的な回答や運動方法を自己認識した回答を認めた。これらの結果は、HALの生体情報モニタリング機能により、理学療法士がより的確な訓練の要点を症例自身にフィードバックし、運動学習を促していた可能性が考えられる。このように運用面を明確に考慮したHALの活用は、免荷歩行訓練時の有効な手段となるだけでなく、より主体的に効果的なニューロリハビリテーションや機能訓練を実施出来る可能性が示唆された。今後は、同症例の経過を継続して分析していくと共に、他の様々な症例に対してもHALの有効な運用方法とその影響について検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 症例報告を通して、HAL運用時の具体的な考慮点を明確にし、段階的な免荷歩行訓練を継続する事でHALによる歩行訓練の有効性が示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Ba0283-Ba0283, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550310144
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- NII論文ID
- 130004692661
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可