集中治療が必要な急性期患者における離床の阻害因子

DOI
  • 曷川 元
    日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野 大和成和病院リハビリテーション科
  • 青木 健
    日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野
  • 小川 洋二郎
    日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野
  • 柳田 亮
    日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野
  • 徳田 雅直
    大和成和病院リハビリテーション科
  • 横山 浩康
    熊谷総合病院リハビリテーション科
  • 飯田 祥
    碑文谷病院リハビリテーション室
  • 中木 哲也
    金沢医科大学病院リハビリテーションセンター
  • 島添 裕史
    新日鐵八幡記念病院リハビリテーション部
  • 山内 康太
    新日鐵八幡記念病院リハビリテーション部
  • 岩崎 賢一
    日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野

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抄録

【目的】<BR>急性期において医療スタッフは、臥床による障害の発生を予防するために、患者がリスクの高い状態であっても早期に離床させなければならない。早期の離床を実現するためには、その妨げとなる因子について原疾患にかかわらず総合的に把握し、それらの因子を予防することが重要である。しかし、急性期における臨床場面では、離床阻害因子をもらさず把握することは難しい。その理由のひとつに、離床阻害因子が不明確であることが挙げられる。つまり、漠然としていた阻害因子を明確にすることは、急性期における早期離床の実現につながる。そこで、本研究では複数かつ不明確な離床阻害因子を、診療科間の相違を越えて明確にするため、質問紙法ならびに探索的因子分析を用いて検討した。<BR>【対象】<BR>心臓血管外科・脳外科・消化器外科・整形外科において、緊急入院もしくは手術が必要で集中治療管理となった国内5施設の患者644例のうち、1日目20m、または2日目100mの歩行が不可能であった400例(各科100例)。平均年齢は71.4±12.3(MEAN±SD)歳。男性188例(47%)、女性212例(53%)である。<BR>【方法】<BR> 最初に急性期領域に携わる理学療法士20名に対し、自由記載によるアンケートにより、離床阻害原因と予想される項目ついて事前にデータ収集を行った。そのうち10名以上が阻害原因として挙げた31項目をもとに「はい」と「いいえ」からなる質問紙を試作した。次に、この試作質問紙により急性期の患者100例を対象に予備調査を行い、この31項目以外に実際に離床を阻害したと考えられる項目がないか確認した。その結果さらに1項目を補足し、32項目からなる質問紙を完成させた。今回、この質問紙を用い、上記対象者に理学療法士10名が本調査を行った。統計解析には探索的因子分析法を用いた。因子採択基準は、離床を阻害する割合を示した因子負荷が0.40以上、かつ2因子にまたがらない質問項目を拾い出し、その質問項目が3つ以上集まった場合を因子として採択した。<BR>【説明と同意】<BR>本調査を実施するにあたり、個人の特定に関連するデータを一切取得しない観察研究であっても、倫理委員会への申請が必要な施設においては承認を得た。その他の施設では、施設長の認可を得た。また、対象患者には、情報収集の目的と利用の範囲について説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>因子分析の結果、因子負荷の合計が大きい順に「疼痛」「運動」「呼吸」「疲労」「循環」と、5つの阻害因子が採択された。「疼痛」の因子は「動作時に痛みを強く訴える」「痛みに対する不安が強い」「鎮痛薬の使用量が多い」、「運動」の因子は「麻痺がある」「失調症・姿勢反射障害を認める」「意識障害がある」といった項目で構成され、離床の阻害に関連していた。「呼吸」の因子は「動作時に呼吸苦が出現する」「酸素化能が悪い」「呼吸器合併症がある」、「疲労」の因子は「動作時に疲労を強く訴える」「倦怠感が強い」「医療従事者や家族への依存傾向が強い」、循環の因子は、「心拍数の異常がみられる」「不整脈が出現している」「血圧の異常がみられる」といった項目で構成された。離床阻害に関連した「はい」の全回答1789票を100%とした場合、各因子が占める割合は「疼痛」24.7%「運動」8.9%「呼吸」13.1%「疲労」9.3%「循環」9.3%であり、5因子合計で65.3%を占めた。<BR>【考察】<BR>本研究から複数の離床阻害因子が明らかになった。最も強く離床を阻害した因子は「疼痛」であった。手術後は適切な疼痛コントロールに加え、術前より疼痛を惹起させない起居動作を指導しておくことが重要と考えられた。「運動」の因子には、中枢神経性の機能障害が強く関連していることが特徴的であった。新たな麻痺の出現や、姿勢反射障害による転倒に留意する必要があると考えられた。また「呼吸」の因子も離床の阻害に大きく関与していた。「循環」因子の項目を管理しつつ、ICU入室直後より体位変換等を行い、呼吸器合併症の予防を行う必要性が考えられた。また急性期において患者は、急激な侵襲、環境の変化などによって肉体的にも精神的にも疲労しているものと思われる。こうした患者の「疲労」に考慮し、適切な負荷量を設定することも重要と考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究により急性期における診療科間を越えた離床阻害因子が明らかになった。実際の臨床場面ではこれらの離床阻害因子に注意して評価を行うことにより、総合的かつ的確に患者の状態を把握することが可能となるものと考えられる。そして、把握した阻害因子を予防することで、集中治療が必要な急性期患者を早期に離床させられるものと考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI2342-DbPI2342, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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