超短期間の心臓リハビリテーション介入効果の検証

DOI
  • 溝口 桂
    JA山口厚生連周東総合病院 リハビリテーション科
  • 川端 悠士
    JA山口厚生連周東総合病院 リハビリテーション科
  • 南 秀樹
    JA山口厚生連周東総合病院 リハビリテーション科
  • 田中 正和
    医療法人冠石原循環器内科病院 循環器内科

書誌事項

タイトル別名
  • PCI後の自己効力感の比較

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抄録

【目的】<BR> 心臓リハビリテーション(以下,心リハ)は,システム化された包括的なチームアプローチの実施が要求されている.当院は心リハの施設基準を取得し,理学療法士が介入するようになり1年が経過した.しかし,包括的なプログラムとは言えず急性期の離床から退院前の集団運動療法を提供するだけに留まっている.また心リハに於ける運動療法の効果に関しては緒家らにより多く報告されているが,短期間の介入が自己効力感(self efficacy;SE)に与える影響を検討した報告は少ない.そこで,今回入院中の患者に対し,心リハプログラムの効果をSEの変化で検証する為にアンケート調査を行い,当院の心リハプログラム効果を立証すると共に考察を得たので報告する.<BR>【方法】<BR>1.対象<BR> 2010年4月から10月の間に狭心症で入院し,経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention;PCI)を施行した45例(男性29名,女性16名)を対象とした.なお,病前から日常生活自立度が低い者(日常生活自立度判定B以下),高度な認知機能の低下によって調査理解困難な者,既往歴に糖尿病性自律神経障害を有する者は除外した.<BR>2.方法<BR> 2010年7月を心リハ介入時期に設定し,その前後で対象者を心リハ実施群(介入群:男性12名,女性8名:平均年齢71.0±8.9歳)と心リハ非実施群(以下,コントロール群:男性17名,女性8名:平均年齢71.7±7.9歳)に割り付け,PCI施行後,退院前にSEに関するアンケート調査を自己記入式で行った。介入群の関与方法としては心電図モニタリング下にて1時間の集団療法(ストレッチ等の準備体操・整理体操と主運動)を1回のみ実施した.主運動は快適な速度での歩行とし運動強度は自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)13レベルとした.また,身体機能に偏りがないように男女比,年齢,重症度(カナダ心臓血管協会(以下,CCS)の狭心症重症度分類)を2群間で比較した.<BR>3.自己効力感<BR> SEの指標には,シアトル狭心症質問紙表(The Seattle Angina Questionnaire)の運動強度が段階付けされた9項目(着衣,平地歩行,シャワー,不整地歩行,日常生活,速歩,走行,重量物,スポーツ)を用い,運動する自信があるか否かを1.絶対できるから5.絶対出来ない,の5段階リッカート式尺度で尋ねた.<BR>4.統計学的解析<BR> 介入群,コントロール群の2群間の比較に当たって,男女比の比較にはχ2検定,年齢の比較には対応のないt検定,CCS狭心症重症度分類およびSEの比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には調査の趣旨を退院前に病室にて説明し,口頭での同意を得た.<BR>【結果】<BR> 対象者の属性(男女比,年齢),CCS狭心症重症度分類の2群間比較では有意差はなく偏りはなかった.自己効力感の比較では着衣,平地歩行,シャワーの3項目では有意差は見られなかったが,不整地歩行,日常生活,速歩,走行,重量物,スポーツの6項目では有意差が見られた.<BR>【考察】<BR> SEとは「ある結果を生み出す為に必要な行動を,どの程度うまく行うことが出来るかと言う個人の確信の程度」を表すもので,行動変容を促す際に重要な視点となるとされている.<BR> 今回の研究結果からPCI後の運動療法によって不整地歩行以降の項目に有意差が見られ,快適レベルの運動を経験した事で退院後の日常生活に於ける不安感を軽減させる事が明らかとなった.シアトル狭心症質問紙表の項目は,徐々に運動強度が漸増しており,運動強度3METs以下の着衣,平地歩行,シャワーの3項目に関しては有意差がなかったが,これら項目に関してはコントロ-ル群も退院前に経験する事であり,有意差が生じなったものと考えられる.運動強度4METs以上の不整地歩行以降の項目で自己効力感の有意差が得られたが,これはSEへの働きかけが出来た為と言える.<BR> 努力すれば自分もここまで出来ると言う自信や意欲を高める為に,4つの情報源(達成体験,代理体験,言語的説得,情報的換気)を通し生み出されるものであると考えられており,運動療法によって4つの情報源いずれにも働きかけが出来た事が示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究にて短期的な運動療法の経験でも,退院後の日常生活に於けるSEの改善が得られる事が明らかとなった.再灌流療法の普及,入院期間短縮の風潮もあり早期退院となり,退院後に活動性が消極的になる事が報告されているが,超短期的な介入でもSEの効果が得られ活動性向上が期待される.また生活習慣,行動変容の段階の変化にもSEが要因に挙げられており,それらの改善も期待される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI2346-DbPI2346, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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