温泉療法が慢性心不全患者の脈波伝達速度(PWV)に及ぼす影響

DOI
  • 工藤 義弘
    九州大学病院別府先進医療センター 慢性疾患診療部 九州大学大学院 芸術工学研究院 人間生活システム部門
  • 尾山 純一
    九州大学病院別府先進医療センター 慢性疾患診療部
  • 西山 保弘
    九州大学病院別府先進医療センター 慢性疾患診療部
  • 矢守 とも子
    九州大学病院別府先進医療センター 慢性疾患診療部
  • 中園 貴志
    九州大学病院別府先進医療センター 慢性疾患診療部
  • 綿貫 茂喜
    九州大学大学院 芸術工学研究院 人間生活システム部門

抄録

【目的】慢性心不全に対する運動療法は以前から行われているが、適切にコントロールされた温泉療法は循環器疾患にも有用であることが注目されるようになって来た。最近での慢性心不全の患者を対象とした研究から、温水浴およびサウナ浴後の血行動態が有意に改善することを報告されている。温泉療法は末梢血管を拡張させることにより、全身血管抵抗を減少させ、心負荷を軽減することが期待される。我々も慢性心不全患者に対する温泉療法が心拍数(Heart Rate,HR)。平均血圧(Mean Blood Pressure)。心胸比(CTR)、左室駆出率(Ejection Fraction,EF) にどのように影響するのかを2004年の日本理学療法学術集会で発表したが、今回はさらに症例数を増加させ検討した。<BR>【方法】慢性心不全(n=13)。なお対照群として、シャワー浴のみのグループと比較した(n=13)。症例数は男性7名、女性6名の計13名。平均年齢は75.0歳(SD3.4)。身長は平均154.1 cm(SD= 2.9)。体重は平均51.4 kg(SD= 2.6)。NYHA心機能分類でIIは6名、IIIは7名であった。心不全の程度及び心機能及の状態を検討した。心拍数(Heart Rate,HR)。平均血圧(Mean Blood Pressure)。心胸比(CTR)、左室駆出率(Ejection Fraction,EF)、脈波伝達速度(PWV)を治療開始前後で比較検討した。温泉療法環境として、単純泉を選択した。室内温度を28°Cとし、温度は40度 、時間は10分間 、回数は毎日で週5回以上2週間とする。方法としては、半身浴または胸骨の深さまで入浴することとした。保温効果の確認として熱画像検査装置(NEC 三栄社hermostat tracer TH3107)を用いて皮膚温度の変化を測定した。<BR>【説明と同意】インフォームドコンセントとして目的と方法を十分に説明した上で、同意の得られた慢性心不全でかつ運動が困難な症例を対象とした。温泉療法における安全性の確保と身体機能の把握のため、初回時の前後60分間、また毎回の前後にバイタルサインのチェックを行った。適宜、医師による診察、さらに最終回にも前後60分間バイタルサインのチェックを行い温泉療法の安全性に関しては慎重に臨んだ。温泉療法は理学療法士が担当した。<BR>【結果】経時的変化として心拍数(HR)73.4±3.6→72.4±4.1 bpm、平均血圧85.2±2.7→81.2±2.5mmHg *(P < 0.05) 、CTR(心胸比)56.1±2.5→54.1±1.9 %、左室駆出率49±4.4→58±3.2 % **(P < 0.01)、脈波伝達速度16.2±0.9→15.1±0.8m/sec **(P < 0.01)。以上のことにより、これらの指標は全て温泉療法により改善傾向を示した。平均血圧で有意な差*(P < 0.05)、左室駆出率と脈波伝達速度で特に有意な差**(P < 0.01)がみられた。シャワーによるコントロール群では有意な差はみられなかった。<BR>【考察】温泉浴が心機能に与える効果を、科学的に検討することは、物理療法を考察していく上でも重要である。本研究は、2週間の温泉療法が体温の変化・バイタルサイン・PWVにどのような変化を与えるのか検討したものである。今回の方法論は温浴の期間が短い方法論と比べ2週間にわたって単純泉による温泉療法をおこなったもので他には例をみない研究と考えている。まず、温泉浴の安全性と温泉の特性を把握するために、温泉療法による皮膚温度の変化について検討した。さらに、体温上昇とその後の保温効果を温泉と温水で比較検討した結果から保温効果は温泉の方が勝っていることが示された。しかしその差はわずかであり、温泉ではなく通常の温水でも少なからず効果が期待出来るものと推測される。次に温泉療浴開始前後のバイタルサインの変化について検討した。バイタルサインの変動は、温泉入浴前に比べて入浴後に収縮期、拡張期血圧、脈拍の上昇が認められた。そしてその後、徐々に低下傾向を示した。特に高齢者は若年者に比べ自律神経調節による循環動態の恒常性維持機能が低いことから、血圧上昇の傾向が強いと考えられる。心拍数については温浴中の増加は少なかった。これは、入浴直後の静水圧作用による血圧の上昇に伴う血管運動性交感神経活動抑制作用によるものと考えられる。また、末梢血管の拡張、温浴後半の血管拡張による血圧降下は、心拍数増加とそれに伴う心拍数の増加を惹起する代償機能によるものと推測される。前述した条件を踏まえて、温泉浴開始前と2週間後の変化を検討した結果から平均血圧、左室駆出率、脈波伝達速度で改善がみられた。つまり温泉浴は、末梢血管の反応性を改善し血管抵抗を低下させることにより、心負荷を軽減し最終的に自覚症状の改善を呈する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】温泉浴が心機能に与える効果を、科学的に検討することは、物理療法を考察していく上でも重要であり、理学療法学研究としての意義であると考えた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P2075-A4P2075, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550361088
  • NII論文ID
    130004581884
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p2075.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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