大腿骨近位部骨折患者の術後2週における歩行能力に関連する要因
説明
【はじめに、目的】平成18年度の診療報酬改定で大腿骨近位部骨折の地域連携パス(以下,地連パス)の加算が認められた。当院においても地連パスが運用されており,地域の急性期病院としての役割を担っている。実際に地連パスの使用開始により,回復期病院への転院が術後2週程度で比較的円滑に行われている。地連パスはバリアンスや転帰から内容を見直す必要があり,バリアンスについて検討をした報告がみられる。一方,地連パスを使用した患者のADLや歩行能力などの運動機能に関する報告は少ない。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折の地連パスを使用している患者の術後2週における歩行能力に関連する要因を明らかにすることである。【方法】研究デザインは前向き調査研究であり,調査期間は平成24年5月から10月末の6か月間である。対象は,当院にて大腿骨近位部骨折の手術を受ける患者とする。取り込み基準として地連パス(全荷重型,免荷型,介助型)のうち全荷重型を使用する者,除外基準としては地連パスから逸脱した者とする。全荷重型とは,受傷前のADLが歩行自立の者であり,不安定型骨折などの場合は適応外である。また術後2週の歩行状態によって歩行可能群と歩行困難群に分ける。調査項目は,[術前]認知機能検査(HDS-R),握力,年齢,性別,骨折部位,手術待機日数,[術後]術式,離床開始・立位開始・歩行開始日数,リハビリテーション時間,[術後2週]10m歩行テスト(10mWT),Timed Up & Go(TUG),歩行時の疼痛(VAS)である。分析の方法は,まず歩行可能群と歩行困難群の比較を行う。両群の各調査項目(HDS-R,握力,年齢,手術待機日数,離床開始・立位開始・歩行開始日数,リハビリテーション時間)を対応のないt検定を用いて検討する。次に術後2週の歩行能力に関連する要因について検討する。歩行可能群の10mWT及びTUGと各調査項目(HDS-R,握力,年齢,手術待機日数,離床開始・立位開始・歩行開始日数,リハビリテーション時間,VAS)との相関関係について検討する。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,また当院の倫理審査委員会の規定に基づいて調査を実施する。【結果】集計対象は13名。内,歩行可能群は8名,歩行困難群は5名であった。対象者の年齢は89±5歳,男性が1名,女性が12名。骨折部位は頚部1名,転子部12名,術式は人工骨頭1名,γ-ネイル12名。術前のHDS-Rは18±8点,握力は11.6±5.1kg。手術待機日数は6±2日,離床開始日数2±0.9日,立位開始日数3±0.8日,歩行開始日数5±2日。リハビリテーション時間は444±123分であった。歩行可能群の術後2週のおける10mWTは80±56秒,TUGは82±63秒,VASは56±56mmであった。歩行可能群と歩行困難群の比較について,HDS-Sにおいて有意な差がみられた。(歩行可能群22±4点,歩行困難群12±9点,p<0.05)。術後2週の歩行能力に関連する要因について,10mWTと年齢の間にかなり強い正の相関(r=0.77)がみられた。TUGとHDS-Rの間にかなり強い負の相関(r=-0.85),年齢との間に強い正の相関(r=0.52)がみられた。10mWT,TUGともに立位開始日数との間に強い正の相関(r=0.55,r=0.63)がみられた。【考察】大腿骨近位部骨折の地連パスを使用した患者の術後2週での歩行能力について,認知機能(HDS-R)や年齢が関連していた。また立位開始日数との関連も見られた。「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン(2011)」では,術後長期(退院後)の歩行能力について,認知機能や年齢が関連すると報告している。本研究では,術後短期(2週)においても同様に認知機能や年齢が関連していた。ただ,術後2週の歩行能力が退院後に関連しているかは明らかになっていない。立位開始との関連について,起立・立位保持動作が監視下において可能と判断されれば,ポータブルトイレの使用が可能になってくる。そのためリハビリテーション時間以外に活動する機会が増え,歩行能力の改善に影響を及ぼしている可能性が考えられる。今後は,データの信頼性を高めるため症例数を増やすとともに,術後2週と退院後における歩行能力の関連を明らかにするため連携先施設と情報共有し検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究は,大腿骨近位部骨折の術後2週の歩行能力を調査することにより,術後の歩行能力低下に対する考察の一助となり,また適切な理学療法介入へと導くものと考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100236-48100236, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550376832
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- NII論文ID
- 130004584790
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可