女性理学療法士の就労に関する諸因子の検討

  • 山野 薫
    宝塚医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 秋元 郁美
    姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • ジョセイ リガク リョウホウシ ノ シュウロウ ニ カンスル ショ インシ ノ ケントウ

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抄録

【はじめに】近年,理学療法士(PT)養成校の増加により,PTは若年集団となり,女性PTも増加傾向にある。一般的に女性の就労は,就職後の数年でライフイベント(結婚,出産,育児)による就労環境の変化を伴う。本研究では,兵庫県中播磨地域の女性PTの就労に関する諸因子を調査し検討したので報告する。【方法】社団法人兵庫県理学療法士会(以下,県士会)中播磨ブロック2011年度版会員名簿(以下,名簿)の全女性会員147人を対象とし,郵送による質問紙法とした。調査項目は,年齢,PT歴,結婚と子どもの有無,勤務体制,就労継続理由,今後の目標とした。形式は択一式(一部記述式)とした。【倫理的配慮】本研究は,姫路獨協大学生命倫理委員会の承認(承認番号:姫獨生11-12)を得た。対象者の人権擁護は,個人情報保護法に則り,調査票の返信をもって同意したとみなした。また,名簿の利用は,中播磨ブロック長の許可と県士会局長会議の承諾を得た。【結果】返送された調査票は,68通(回収率46.3%,平均年齢30.8±7.9歳,平均PT歴8.1±7.0年)で,全て有効であった。未婚者45名(66.2%),既婚者23名(33.8%)で,子どものいる者は19名(27.9%)であった。職場は,病院45名(66.2%),訪問看護ステーション6名(8.8%),通所リハビリテーション4名(5.9%),診療所3名(4.4%),養成校3名(4.4%),その他5名(7.4%),不明2名(2.9%)であった。勤務体制は,常勤63名(92.6%),非常勤5名(7.4%)であった。就労継続の主な理由は,「生活のため」35名(51.5%),「やりがい」14名(20.5%),「PTが好き」7名(10.3%),「その他」4名(5.9%),不明8名(11.8%)であった。今後の目標(重複回答)では,「技術講習会等への参加」39名(57.4%),「他の資格取得」18名(26.5%),「学会発表」5名(7.4%),「論文作成」4名(5.9%),「部門内での昇任」3名(4.4%),「大学院進学」2名(2.9%),「海外研修」1名(1.5%),「その他」6名(8.8%)であった。子どものいる者(19名)の中で,子どもの急病の際の預け場所は,「祖父母宅」12名,「ない」5名,その他2名で,「病児・病後児保育所」の回答はなかった。また,出産後に感じた不便(自由回答)は,「子どもの急病の際の預け場所がない」12名,「時間調整の大変さ」3名などであった。保育所を尋ねる設問では,「職場内保育所がある」31名(45.6%),「職場近隣に保育所がある」35名(51.5%)であった。【考察】本研究結果から女性PTの就労に関する特徴的な課題は,以下の3点と考えられた。第一に,今後の目標で「技術講習会等への参加」と回答した者が過半数を占めた。これは,業務特性(一対一治療)や患者側からの期待によって,知識や技術向上が不可欠という個人意識の表れであるとうかがえた。次に「他の資格取得」という回答が26.5%にみられた。PT免許を基礎資格として取得可能な医療関連資格は,多様化する患者ニーズへの対応や個人の能力向上を可能にする。さらに,「大学院進学」,「論文作成」,「学会発表」,「海外研修」との回答は,未婚者のみであった。理由は,どれも年単位の期間を要するため,既婚者や子どものいる者では,取り組みにくい目標であると考えられた。第二に,子育て期に必要な環境整備が挙げられた。45.6%に職場内保育所があることが分かったが,病気の子どもは職場内や近隣の保育所に登園できない。加えて,「子どもの急病の際の預け場所がない」という自由意見も複数みられ,女性PTの就労継続条件の中で職場内保育所の整備のみが中心でないことが判明し,病児対応が切実な問題であることが分かった。病気の子どもの保育に対応する施策は,「病児・病後児保育事業」であり,厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知(平成20年6月9日 雇児発第0609001号)により定められている。同事業は人口53.6万人の姫路市でも4か所の設置にとどまっており,人口10万人対比設置率を向上させる必要がある。第三に,仕事の継続理由に「生活のため」と回答した者が過半数みられた。しかし,既婚者と未婚者では,自身の収入の本質的な理由が異なるものと考えられる。女性既婚者の就労は,夫の収入や幼少期の子どもの有無と関連があるとの報告があり,家庭内経済が主たる理由と考えられた。一方,未婚者理由は,家族との同居の有無(住宅経費や食費との関連)等とも関係しており,詳細な調査が必要である。今後,理学療法部門は,取扱患者数や職場方針等を踏まえて,余裕のある人員配置を行い,ライフイベントを抱える女性PTの継続した就労を支援する努力が必要である。【理学療法学研究としての意義】PTの就労環境は,個人の判断と並行して労務法規を基に各職場に委ねられている。本研究等の積み重ねにより,女性PTが就労継続しやすい職場内設定が可能となると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100234-48100234, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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