基礎疾患による入院期心不全リハビリテーションの検討

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抄録

【はじめに、目的】 我が国における入院期の心不全症例を対象とした他施設登録観察研究(JCARE-CARD)の結果より、虚血、弁膜症高血圧が心不全の基礎疾患として多いことが報告されている。心不全に対して理学療法を行なっていく上で各基礎疾患により循環動態が安定するまでの期間や循環動態安定後の理学療法の進行を阻害する要因が異なり在院日数に影響を及ぼすことが予想される。しかし、基礎疾患別による入院期心不全症例に対する理学療法の進行を阻害する因子を比較した報告は少ない。今回、入院期心不全症例を対象に虚血・弁膜症・高血圧の各基礎疾患別に入院中の治療及び理学療法実施状況について調査し、理学療法の進行を阻害する因子について検討したので報告する。【対象】 平成22年4月以降に入院後、平成23年3月以内に退院となった入院期の心不全症例で、理学療法実施後、自宅退院・転院又は施設入所となった70名中、基礎疾患が虚血26名、弁膜症13名、高血圧8名の合計47名(男性26名、女性21名、平均年齢80.9±8歳)を対象とした。心不全の基礎疾患については循環器内科医師の協力のもと分類を行なった。【方法】 調査項目は基礎データ(年齢・性別・投薬状況・合併症)、入院中の治療及び理学療法実施状況(入院時BNP・入院時NYHA分類・LVEF・CCU在室期間・強心薬使用日数・利尿剤静注日数・酸素投与日数・理学療法実施期間・在院日数・自宅退院率)、理学療法の進行を阻害する因子(入院中の心不全増悪の有無と心不全の原因・負荷心電図テスト陽性・胸部症状・不整脈・ 血圧・SPO2の低下・その他)を挙げ後方視的に診療録より情報を収集した。検討事項は、まず、基礎データ、入院中の治療及び理学療法実施状況の項目について、各基礎疾患(虚血・弁膜症・高血圧)の3群間での差を検討した。次に、各基礎疾患における理学療法阻害因子について検討を行なった。統計学的検討には3群間の比較にKruskal Wallis検定及び分割表分析を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の規定に従い実施し、全て匿名化された既存のデータを使用し検討を行った。【結果】 また、入院中の治療及び理学療法実施状況について基礎疾患により3群間での差を検討した結果、基礎疾患によって入院時BNP・入院時NYHA分類・LVEFに有意な差は認めなかったが、利尿剤投与期間(P=0.0234)、理学療法実施期間(P=0.0031)、在院日数(P=0.0018)に有意な差を認め、高血圧群と比較して、虚血群と弁膜症群は期間が長かった。また酸素投与日数についても有意な差は認めなかったが虚血群と弁膜症群は長い傾向にあった(P=0.0552)。基礎疾患による理学療法阻害因子としては虚血群では胸部症状(3名)・負荷心電図テスト陽性(2名)等、弁膜症群では腎機能低下・貧血・β遮断薬増加による心不全増悪(3名)、不整脈(2名)等、高血圧群では安静時または運動時の血圧の上昇(4名)が挙げられ、基礎疾患により阻害因子が異なる結果となった。【考察】 心不全に対する理学療法を実施していく上で、心不全に対する治療のみならず、基礎疾患にも目を向けてリスク管理や予防医学に努めることが要求されている。山田らは、慢性心不全の理学療法について、心不全は基礎疾患によって心機能が大きく異なり病態の進行によっても運動時のリスクは異なると述べている。今回の結果においても、各基礎疾患における入院時の心不全の重症度に有意な差はみられなかったが、高血圧群と比較して虚血群と弁膜症群においては利尿剤静注期間や酸素投与日数が長く循環動態の安定に時間を要していた。循環動態安定後も虚血群は胸部症状や負荷心電図テスト陽性、弁膜症群は心不全の増悪や不整脈などにより理学療法の進行が遅延しており在院日数に影響を及ぼす一因と考えられた。また、高血圧群では循環動態が短期間で安定し、理学療法を実施する上においても血圧が主な阻害要因であり投薬の変更などによりADLの早期改善を図ることができた。各基礎疾患により理学療法の進行を阻害する因子が異なり退院時の生活指導においても基礎疾患に応じた心不全増悪予防の生活指導を行っていく必要があるものと考えられた。【理学療法学研究のとしての意義】 基礎疾患により入院中の治療、理学療法実施状況及び理学療法を阻害する因子が異なるため、理学療法を実施していく上で心不全の重症度のみならず各基礎疾患を把握したリスク管理や予防的生活指導が必要である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Da0995-Da0995, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550389248
  • NII論文ID
    130004693273
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.da0995.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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