Trail Making Testを用いた注意機能と転倒との関連

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【目的】加齢により注意力が低下すると、わずかな段差など様々な環境における必要な注意の選択が行えず、転倒の危険性が高くなる。近年、転倒と注意機能の関連を明らかにした先行研究が多く行われているが、転倒の有無や年齢、性別で指標化されている報告は少ない。今回、地域在住の高齢者を対象に、注意の選択機能の指標として用いられているTrail Making Test &#8211; part A(以下TMT-A)を実施し、転倒の有無や年齢、性別との関連性について検討し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】対象はI市に在住の高齢者を対象に開催された健康フェスタ参加者のうち、同意の得られた97名(男性23名、女性74名、平均年齢73.2±7.8歳)とした。また、対象者は基本的な日常生活動作が自立し、脳血管障害や認知症がなく、健康に関するアンケートに回答できる者であった。注意の選択機能の評価としてTMT-Aを測定した。また、過去1年間での転倒の有無と転倒経験を有する場合には転倒回数を聴取した。対象者を性別、年齢別(60代、70代、80代の3群)、転倒の有無と転倒回数別に分類し、検討を行った。予備研究としてTMT-Aは当ステーション利用者8名を対象に日を改めて2回行い、級内相関係数(ICC)を算出し、再現性を確認した。統計処理はTMT-Aと年齢及び性別との関係性を検討するため、Pearsonの相関係数を算出した。また、性差及び転倒群と非転倒群の2群間の比較はMann-Whitney検定、年齢群間、転倒回数別の検定はKruskal-Wallis検定を行い、危険率5%未満を有意とした。<BR>【説明と同意】対象者に対して本研究の趣旨と方法を説明し、理解を得た上で協力を求め、口頭と書面にて同意を得た。<BR>【結果】TMT-Aの検者内でのICCは0.9905と高い再現性を認めた。性別及び年代別の分析では男女ともに年齢との相関を認め、相関係数は男性(r=0.593)、女性(r=0.488)であった。また、TMT-Aの中央値は男性60代32.8秒、70代53.7秒、80代50.6秒、女性60代42.4秒、70代54.7秒、80代64.1秒となった。男女別の分析ではTMT-Aの中央値は男性50.6秒、女性51.3秒で性差は認められなかった(p=0.980)。転倒の有無における分析ではTMT-Aの中央値は転倒群70.5秒、非転倒群46.9秒となり、有意差が認められた(p=0.001)。転倒回数別の分析では各回数に有意差は認められなかった(p=0.466)。<BR>【考察】今回の結果から注意の選択機能は性別及び年齢と相関を認め、加齢とともに低下する傾向にあった。先行研究によるとTMT機能は加齢により低下し、特に50歳以上になると、年齢による影響が著明であると報告されており、本研究の結果と一致している。また、鹿島らによると65歳以上の健常高齢者のTMT-A平均施行時間が218秒との報告があり、本研究ではどの年代も鹿島らの平均値よりも時間のかかる結果となった。性差に関しての報告は様々であるが、一般的には性差なしとの報告が多く、本研究の結果とも一致している。転倒の有無による分析では、TMT-Aの所要時間は転倒群が非転倒群に比べ有意に増大しており、先行研究の結果と一致している。そのことから、注意の選択機能の低下が転倒を引き起こす要因の1つとなる可能性が示唆された。しかし、今回の研究では身体機能や転倒回数との関連性を明らかにできなかったため、今後の検討課題と考える。さらに、対象者数を増やしていき、転倒と注意機能との関連性を客観的評価にて明確に指標化することで、転倒の予測、予防につなげていきたいと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】注意の選択機能の指標として用いられているTMT-Aと年齢、性別、転倒暦との関連性を示すことで、転倒予防、予測につながる可能性が示唆された。

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Details

  • CRID
    1390282680550410880
  • NII Article ID
    130004581929
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p3032.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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