下肢荷重検査からみるパーキンソン病患者の荷重バランスと歩行障害との関係についての検討

  • 吉田 龍一
    医療法人あべ神経内科クリニックリハビリテーション科
  • 吉田 悟志
    医療法人あべ神経内科クリニックリハビリテーション科
  • 竹内 大樹
    医療法人あべ神経内科クリニックリハビリテーション科
  • 折原 和夫
    医療法人あべ神経内科クリニックリハビリテーション科
  • 高橋 琴美
    医療法人あべ神経内科クリニックリハビリテーション科
  • 阿部 隆志
    医療法人あべ神経内科クリニックリハビリテーション科

説明

【目的】パーキンソン病(以下PD)患者の主訴として歩行障害が多く挙げられる。当院では、病態評価の一方法として下肢荷重検査を実施しているが、左右差を認めるケースが多い。この左右差は姿勢反射障害や、斜め徴候による姿勢アライメントの崩れが原因であると考えられる。このことから下肢荷重検査における左右差は、歩行障害にも関連していると考えられる。下肢荷重検査の左右差が少ない例では姿勢反射障害や斜め徴候の影響が少なく歩行障害の発生率が低くなり、左右差が大きい例程、歩行障害の発生率が高くなると考えられる。しかし、歩行障害を認めないが下肢荷重検査において大きな左右差を示す症例もみられた。そこで本研究では、下肢荷重検査における荷重バランスの左右差に加え、左右の下肢における最大荷重量と最小荷重量との差(以下 荷重量の変化)に着目し、歩行障害との関係について検討した。<BR>【方法】対象は、当院通院中のPD患者のうち、歩行障害を認めるA群50例(平均年齢70.6±7.6、男性22例、女性28例、斜め徴候42例、平均罹病期間11.8±5.9年)、歩行障害を認めないB群50例(平均年齢70.9±9.1、男性22例、女性28例、斜め徴候6例、平均罹病期間6.8±3.9年)とした。下肢荷重検査は、アニマ社製下肢荷重計G-620を用いた。プレートから2m離れた目の高さに直径1cm程度の黒い視標を取り付け、開眼にて実施した。計測時間は60秒間実施した。下肢荷重検査の左右差、荷重量の変化をデータとし、A群とB群で比較した。荷重量の変化には、左右の下肢それぞれで下肢荷重検査における最大荷重量と最小荷重量との差を用いて比較した。また、歩行障害と斜め徴候の関係について検討した。統計学的処理にはt検定、χ二乗検定を用い、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】対象者には検査について十分に説明を行い、同意を得て実施した。<BR>【結果】下肢荷重検査における左右差の大きさは、A群が9.3±7.4%、B群が7.5±6.6%で、両群間において有意な差は認められなかった。下肢荷重検査の荷重量の変化は、左下肢でA群が11.2±11.8%、B群が3.9±2.1%、右下肢でA群が11.1±11.7%、B群が3.9±2.1%で、下肢荷重検査の荷重量の変化に左下肢、右下肢それぞれで有意な差が認められた(左下肢p<0.001、右下肢p<0.001)。また、斜め徴候についても歩行障害との有意な関係が認められた(p<0.001)。<BR>【考察】今回の結果より、下肢荷重検査における左右差の大きさと歩行障害との間には有意な関係があるとはいえず、下肢荷重検査の荷重量の変化と歩行障害との間には有意な関係があるといえる。下肢荷重検査における左右差の大小に関わらず、荷重量の変化が大きい例にて歩行障害の発生率が高くなると考えられる。荷重量の変化が大きい例では静止立位において重心の動揺が大きいことから、姿勢反射障害の影響が現れていると考えられる。このことから、重心を意図的にコントロールすることが困難となり歩行に必要な重心移動を十分に行うことが出来ないのではないかと考えられる。さらに、歩行障害と斜め徴候にも有意な関係があることから、斜め徴候を認める例では下肢荷重検査における荷重量の変化が大きくなり、歩行障害の発生率が高くなると考えられる。歩行障害の有無に関わらず下肢荷重検査における左右差の大きさに有意な差が認められなかったことから、斜め徴候による重心の偏りや左右差を改善するために大きくなった荷重量の変化ではないと考えられる。加瀬らの報告では、治療開始より年数が経過するに伴い姿勢反射障害が顕著に現れるとされている。罹病期間を比較すると歩行障害を認めるA群にて罹病期間が長い傾向がみられる。このことから、斜め徴候を認める例では斜め徴候を認めない例よりも姿勢反射障害が現れやすいことが考えられる。つまり、歩行障害を認めるA群にて斜め徴候を認める例が多かったのは、罹病期間が長く姿勢反射障害の影響を受けているためと考えられる。今回の結果を受け、歩行障害へのリハビリテーションとして、荷重量の変化を小さくするための治療アプローチが必要になってくると考える。荷重量の変化を小さくするためには重心移動の円滑化、重心動揺の自己制御といった行動を起こすために必要な重心のコントロールに重点を置くことが重要と考える。今後、下肢荷重検査における荷重量の変化を病態評価のひとつとして捉え、PD患者における歩行障害の改善に取り組みたいと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】下肢荷重検査がPD患者の病態評価として有用であると考えられ、リハビリテーション実施効果の判定などにも活用していきたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P3095-B4P3095, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550471680
  • NII論文ID
    130004582174
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p3095.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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