当院における小児疾患の骨折事例

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抄録

【目的】小児の理学療法は、原疾患や発達の障害により骨折のリスクが高いことが多い。その理由として発達の障害等により臥床時間が長くなること、摂食嚥下障害等により栄養障害が起こりやすいこと、原疾患や合併症に対して抗てんかん薬やステロイド治療などが使用されることにより代謝障害が起こること等が挙げられる。また、理学療法中に骨折が発生したり、理学療法開始後に骨折が発見されることは医療事故との関連もあり、十分な注意が必要である。本研究の目的は、当院で発見された小児疾患の骨折事例を見直すことで骨折リスクを確認し今後の骨折予防に役立てることである。<BR>【方法】<BR>対象は、2002年1月から2009年8月までに当リハビリテーションセンターを受診し、理学療法実施期間中あるいは理学療法開始前に骨折を認めた14例である。性別は男児8名女児6名、骨折時の平均年齢は3.4±4.8歳であった。基礎疾患、受傷年齢、受傷時の運動機能、骨折部位、受傷機転、治療などについて検討を行った。事例提示として、理学療法実施中に受傷したと思われる事例について報告を行う。<BR>【説明と同意】<BR>本研究の倫理面的配慮は、小児科受診時あるいは理学療法開始時に匿名性に配慮した上でデータを記録することを説明し了解を得た。<BR>【結果】<BR>対象となった14例の基礎疾患は、脳性麻痺・てんかん・染色体異常症を合併し大島分類1に相当するいわゆる重症心身障害8例、超低出生体重児2例、二分脊椎1例、骨形成不全症1例、抗リン脂質抗体症候群1例、肥満症1例であった。受傷時の運動機能としては、肥満症は独歩可能であったが、この他は全例が寝たきりの状態であった。骨折部位は、肋骨骨折2例、大腿骨頸部骨折1例、大腿部骨幹部骨折1例、大腿骨顆上骨折4例、脛骨近位骨折2例、上腕骨骨幹部骨折1例、多部位複数回骨折3例であった。受傷年齢は0歳5例、1歳3例、2歳1例、4歳1例、5歳1例、8歳1例、10歳1例、16歳1歳であった。受傷機転は、理学療法実施中のものは座位訓練時1例、関節可動域訓練時1例、転倒1例であった。理学療法に関係のないものは出産時1例、呼吸不全による疲労骨折1例、原因不明9例であった。骨折に対する治療は全例保存療法であった。事例1 1歳女児、基礎疾患は染色体異常による重症心身障害、正座様の座位訓練を施行時に両大腿骨顆上骨折を受傷、シーネにて保存療法となった。骨折のリスクおよび要因としては、基礎疾患に対する治療としてのACTH療法、基礎疾患と発達の障害による長期臥床、肥満傾向により大腿部が太く座位時(膝関節屈曲時)の大腿部への負担が大きいことが挙げられた。事例2 4歳男児、基礎疾患は重症新生児仮死による重症心身障害、膝関節屈曲方向への他動運動時に左大腿骨顆上骨折を受傷、シーネにて保存療法となった。他施設での受傷のため詳細な情報ではないが、骨折のリスクおよび要因として、膝関節の著明な伸展拘縮、発達の障害による長期臥床が挙げられた。<BR>【考察】<BR>当センターに受診し、何らかの骨折歴があるか骨折を受傷した事例は約8年間で14例であった。基礎疾患からみると重症心身障害が最も多かった。諸家においても重症心身障害児の骨折報告は多く、その要因として中島らは骨密度の有意な低下と膝関節の屈曲拘縮を挙げ、受傷機序として下肢の更衣動作時を挙げている。受傷年齢からみると、0歳が最も多く、0歳児5例の受傷機転としては原因不明が4例、他の1例は呼吸不全による肋骨骨折であった。新生児の場合、骨そのものが脆弱でありくる病などの病態が加わるとさらに骨折リスクは高まると思われる。今回はいずれも理学療法開始前に受傷しており、理学療法の介入方法によるものではないが、徒手的な呼吸理学療法により肋骨骨折を認めたといった報告もあり十分な病態の把握と情報収集が必要と思われた。理学療法実施中に受傷した事例においては、事例1では完全な正座姿勢ではないものの、膝関節屈曲位が大腿部に対して横断方向へのストレスとなり受傷したものと思われる。事例2は、他施設での受傷のため情報が定かではないが、著明な膝関節屈曲制限のため屈曲方向への他動運動が大腿部に対して横断方向へのストレスとなり受傷したものと思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>小児疾患の骨の脆弱性に対しての対応は、施設によっては骨密度測定を行い状況に応じて投薬治療が行われたり、家族等へ注意を促しているが画一的なものはない。現在、当院では重症心身障害児に対する骨密度測定はあまり行われていない。今回の事例の多くは基礎疾患や病態により骨折リスクの高い事例であったと思われる。今後、今回の骨折事例を基に骨折のリスクの再確認をすること、骨密度の測定を行うこと、骨折リスクに関する情報を職員、家族へ提供していくことが骨折予防につながると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), G4P2338-G4P2338, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550508928
  • NII論文ID
    130004582991
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.g4p2338.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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