ロボットスーツを用いた授業効果の検証

DOI
  • 浅川 育世
    茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 水上 昌文
    茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 岩本 浩二
    茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科

この論文をさがす

抄録

【はじめに、目的】ロボットスーツHAL® (Hybrid Assistive Limb)福祉用(以下,HAL)は,筑波大学大学院システム情報工学研究科の山海嘉之教授らによって1991年に開発研究が開始され,2008年にはリース販売が開始された.主に福祉,介護分野での自立動作支援,介護支援などでの応用が考えられているが,医療分野でも特に理学療法における歩行練習の機器として普及し始めている.本学では平成22年度より3年次必須科目「生活支援機器論」においてHALを用いた授業を行っている.本研究はこの授業を通じ学生が何を学んだかを明らかにすることを目的とする.【方法】授業に参加した43名に対し,授業前(HALの印象や自分で持っている知識など)および授業後(体験してみた感想など)に自由記載のレポートの提出を課し,提出されたレポート(43名分;100%)についてテキストマイニングを行った.テキストマイニングはレポートをテキスト形式(.txt)にデータ化し,これらのデータをKHCoderにて分析した.授業前と授業後のデータそれぞれで頻出語を抽出し,また授業後のデータからはクラスター分析と共起ネットワークの作成により学生がHALをどのように理解したかを分析した.【倫理的配慮、説明と同意】レポート提出後,本研究の内容と意義,匿名性の確保などについて口頭で説明し,すべての学生から同意を得た.【結果】授業前のデータからは1634語,授業後のデータからは9486語が抽出された.また授業前後のデータより最頻150語を抽出した結果,授業前は「装着(出現回数;17)」,「重い(同12)」,「動く(同12)」,「歩行(同12)」,「ロボットスーツ(同11)」,「下肢(同11)」,「高価(同11)」,「難しい(同11)」,「歩ける(同10)」,「使用(同9)」が上位10番目までの最頻語であった.同様に授業後は「装着(出現回数;91)」,「歩行(同79)」,「患者(同70)」,「使用(同34)」,「理学療法(同34)」,「時間(同31)」,「アシスト(同27)」,「見る(同23)」,「難しい(同22)」,「歩く(同22)」が上位10番目までの最頻語として抽出された.授業後のデータについてクラスター分析(Ward法,出現回数10回までの語を対象)を行った結果,「理学療法分野での可能性」,「歩行困難者への実用性」,「HALの調整」,「体験後の感想」,「HALのイメージ」,「HALの効果」,「HALの取り扱いに対する課題」の7つのクラスターに分類された.また共起ネットワークからは「歩行」が中心となり「歩行」は「患者」,「装着」と強いつながりを示し,「筋力」や「筋」,「アシスト」がキーワードとなっている関係性が示された.【考察】授業前後のデータの最頻語を比較すると,授業前のデータからは「重い」,「高価」,などHALのイメージに関連した語が見られ,授業後のデータでは授業前には見られなかった「患者」や「理学療法」と言った語が出現してくる.このことはHALについて漠然としたイメージしか持たず,また一般人にも似た感覚でHALを捉えていた学生が,授業を通じ実際にHALの装着を体験することにより,「歩行能力に障害を持つ患者に装着する」といった理学療法とHALの関係性を考えるように変化したものと示唆される.また共起ネットワークからは「患者に装着し、残存筋をアシストし歩行につなげる」といったHALの特性を理解したこと,クラスター分析ではクラスターに「理学療法分野での可能性」が含まれるなど本授業の目的はほぼ達成できたものと思われる.【理学療法学研究としての意義】理学療法士の前段階にある理学療法専攻学生において最先端機器を使用した授業の効果が確認された.今後ロボットを用いた理学療法はロボット工学の発展とともに標準化していく可能性があり,本授業において概ね期待通りの効果を得たことは今後の理学療法の発展にも意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100273-48100273, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ