変形性膝関節症のGradeの違いによる歩行特性

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抄録

【目的】<BR>変形性膝関節症(膝OA)は,半月板,靭帯,関節面などを構成する組織の退行変性を基盤とした疾患である.<BR>発症要因は明らかではないが,年齢,性別,肥満,筋力低下,歩容などの固体要因も大きく関与している.膝OAの進行は歩行や日常生活動作の頻回に繰り返される力学的な負荷が大きく関係する.そのため動作解析は膝OAの発症要因を検討する上で有用な手段だと言える.<BR>先行研究は,膝OAの歩行中における下肢関節角度,関節モーメントから関節まわりにかかる力学的負荷を検討した報告は散見されるが,膝OAのgradeにおける基質的変化と歩行解析の関係を明らかにした報告は未だ少ない.本研究は,膝OA患者の歩行解析と膝OAの進行度分類について検討した.<BR>【方法】<BR>対象は,変形性膝関節症と診断された患者42名(男性6名,女性36名,年齢65.2±9.0歳)とし,測定下肢は43肢とした.さらにX線画像を用いて,変形性膝関節症進行度分類(横浜市大式)により,grade1(骨硬化像または骨棘),grade2(関節裂隙3mm以下の狭小化),grade3(関節裂隙の閉鎖または亜脱臼)の3郡に分類した.測定下肢の内訳はgrade1:12肢,grade2:17肢,grade3:14肢であった. <BR>歩行解析は三次元動作解析装置(VICON MX-3:Vicon Motion Systems),床反力計(AMTI)2台を用いた.剛体リンクモデルは,Davis,KadabaのHelen Hayes marker setを用い,7体節,22マーカを貼付した.課題動作は通常歩行とした.<BR>計測データは,解析ソフトBodyBuilder(Vicon Motion Systems)を用いて,歩行中の股関節,膝関節,足関節角度,床反力鉛直成分(FRF)を算出した.各データはEpsilonSync(東総システム)を用いて,1歩行周期で正規化し,加算平均,平均波計を作成した.<BR>【説明と同意】<BR>所属施設における倫理委員会の許可を得た.対象には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明した.同意が得られた場合のみ対象として計測を行った.<BR>【結果】<BR>1)歩行時のFRF波形パターンは,grade1,2群では二峰性の様相を示したが,grade2では波形がやや平坦化した.grade3は歩行周期の46%で最大値597.6±83.0Nとなる一峰性のパターンを示した.歩行周期中のToe Off(以下TO)はgrade1群で58%,grade2群で60%,Grade3群で75%となり,gradeが進行によって遅延する傾向を示した.grade3の波形は,他の2群と比べてばらつきが大きかった.<BR>2)股関節角度は立脚終期の最大伸展の時期が遅延した.grade1で46%:-7.0±6.8度,grade2で49%:-7.7±6.1度,grade3で53%:-1.6±10.8度であった.grade3の波形は他の2群に比べ,対象のばらつきが認められた.<BR>3)膝関節角度は,gradeが進むにつれHeel Contact (HC) 後のDouble Knee action前半で減少を示した.立脚終期のDouble Knee action後半は出現時期の遅延がみられた.また遊脚期の膝最大屈曲の時期も遅延した.遊脚期の膝最大屈曲時はgrade1で63%:52.3±11.6度,grade2で64%:59.1±12.2度,grade3で73%:54.7±12.3度であった.膝関節においてgrade3の波形は他の2群に比べ対象間にばらつきがあった.<BR>4)足関節角度は立脚終期での最大背屈時期が,gradeが進むにつれ遅延した.最大背屈時期はgrade1で41%:7.9±11.3度,grade2で42%:17.9±16.2度,grade3で48%:16.2±9.9度であった.足関節角度の波形は全てのgradeで対象のばらつきが強く,一定のパターンを示さなかった.<BR>【考察】<BR>関節角度の波形は,gradeが進むにつれて,立脚終期での足関節最大背屈に続く,股関節最大伸展,Double Knee action後半の遅延がみられた.<BR>FRF波形は,立脚終期のTO遅延が認められた.各関節角度の遅延は,足関節の影響が関与していると考えられた.<BR>股・膝関節角度の波形が対象間で一定の傾向を示したが,足関節では対象間のばらつきが大きかったことから,膝OAでは足関節が歩行の調整役として機能していることが考えられた.臨床において,足関節機能へのアプローチが膝OAの歩行に寄与すると考え,足関節に着目して,さらなる検討を行っていく予定である. <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>膝OAのgrade間の歩行特性を解明していくことで,臨床での治療,予後予測の一助になると考える.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O1099-C3O1099, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550530432
  • NII論文ID
    130004582211
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o1099.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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