当院における外来腰部疾患患者の理学療法の有効性

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タイトル別名
  • 当院[我汝会えにわ病院]における外来腰部疾患患者の理学療法の有効性
  • トウ イン ワジョカイ エニワビヨウイン ニ オケル ガイライ ヨウブ シッカン カンジャ ノ リガク リョウホウ ノ ユウコウセイ
  • BS-POP陽性群と陰性群の比較

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抄録

【目的】当院では外来腰部疾患患者に対し,個々の症状に応じた運動療法や日常生活指導を実施している.その中でも,疼痛・Disabilityが長期にわたって改善せず評価・治療に難渋する症例を臨床上経験する.近年,慢性疼痛と心理・社会的問題には大きな関連があるとLintonらが報告している.紺野らは心理的危険因子を簡易的にスクリーニングする目的で「患者用」「医師用」から成るBS-POPを開発し,この検査で陽性となる症例は精神医学的に問題のある場合が多く,通常の整形外科的治療では改善が難しいと報告している.そこで本研究の目的は,当院の理学療法効果がBS-POP陽性群と陰性群とでどのような違いがあるのかを後方視的に調査することである.<BR>【方法】対象は,2008年4月~9月に慢性的な腰痛または下肢症状(疼痛・しびれ)を主訴として当院整形外科を受診,理学療法を実施し,その後の追跡が可能であった120例(年齢:50±16.4歳)とした.除外基準は,問診票に記載漏れがある者・整形外科的手術が既往にある者とした.診断名は腰椎椎間板症77例,腰椎椎間板ヘルニア19例,腰部脊柱管狭窄症5例,その他19例であった.検討項目は,初回介入時(初回時)と初回時より数ヶ月(平均3.5±1.5ヶ月)経過したfollow-up時の腰痛・下肢痛・しびれのVisual Analogue Scale(VAS;0-100mm),疼痛部位,Oswestry Disability Index(ODI;0-100),職業,スポーツ活動である.さらに,follow-up時では生活満足度(0:満足している 100:満足していない;0-100mm),鎮痛剤使用頻度,state trait anxiety scoreを加えた.BS-POPはfollow-up時に「患者用」を用い調査した.総得点が15点以上を陽性群,14点以下を陰性群とし,各項目について両群間で比較検討を行った.統計学的検討はMann-Whitney U-検定,χ2検定を用い,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】対象にはfollow-up時に調査の趣旨を詳しく説明し,データを研究に用いることの同意を得た.<BR>【結果】陽性群は60例,陰性群は60例であった.また,理学療法の関わりが初回の1度のみだった者が86例(74%),2回以上だった者が34例(26%)であった.初回時の腰痛VASは,陽性群で61.6±23.4mm,陰性群で42.6±23.2mmと陽性群が有意に高かったが,ODIについては陽性群が29.2±12.1,陰性群で27.3±14.7と有意差を認めなかった.follow-up時の腰痛VASは陽性群で44.9±28.7mm,陰性群で26.4±23.3mmであり,陽性群が有意に高かった.ODIは 陽性群が25.1±13.7,陰性群は16.9±13.8と陽性群が有意に不良であり,sub-scoreでは痛み・身の回りのこと・座ること・睡眠・社会生活・乗り物での移動の6項目で困難感が高かった.生活満足度は陽性群が54±28.4mm,陰性群が31.8±21.4mmと陽性群が有意に不良であった.state trait anxiety scoresは陽性群が健康・精神状態について不安や制限を抱えていると回答した者が有意に多い結果となった.<BR>【考察】佐藤は患者用BS-POPが心理検査であるMMPI(ミネソタ多面人格目録)のヒステリー尺度・心気症尺度・抑うつ尺度と関連性が高いと報告している.本報告により,陽性群はfollow-up時の疼痛・ODI・生活満足度・state trait anxiety scoresが不良だったことから,主観的QOLが低く,何らかの心理的問題を抱えている可能性があると考えられた.よって患者用BS-POPは,心理的問題の有無をスクリーニングする手段の1つと成り得ると考えられる.また紺野は慢性腰痛の治療に精神科医による認知・行動療法を行うのが望ましいとしており,時間をかけて信頼関係を築く事が重要だとしている.我々もBS-POPが陽性で心理的問題があると予想される症例には,単発的な運動療法・日常生活動作の指導だけではなく,患者の疼痛や訴えを傾聴しながら継続的なアプローチを行い,認知・行動面に働きかけるような関わりが必要だと考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】患者用BS-POPは患者の心理的問題の有無を簡易に判断する材料の1つとなることが示唆された.またBS-POP陽性となる患者に対しては,初回のみの単発の運動療法・日常生活指導だけでは不十分であることが考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C2Se2056-C2Se2056, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

参考文献 (15)*注記

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