理学療法士のワークモチベーションと職場運営

DOI
  • 岩 裕子
    文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科

Abstract

【目的】PTの質の維持・向上のためには,PTが自分自身の仕事を中心としたキャリア発達を意識し,ワークモチベーションを維持しながら,成長し続けることが必要である。しかしながら,これまでの研究においてPTのワークモチベーションは全体的に高い傾向であったが,その高低だけでなく,PTが実際に何に動機づけられているかについて客観的に捉える必要性が示唆された。そこで今回,PTのワークモチベーションについて質問紙調査を行い,若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】対象はPTの有資格者で,現在医療機関に勤務しており,免許取得後1年以上勤務している者である。調査は郵送法にて行い,1002郵送し,回収は701であり,無記入箇所が多い10を除き,691を分析対象とした(有効回収率69%)。性別:男性420名,女性271名,平均年齢:30.2±6.1歳,経験年数:平均6.2年,所属施設:病院602名,医院・クリニック89名。調査期間:2008年12月~2009年2月。内容:PT50名を対象とした予備調査の結果から作成したワークモチベーション76項目(Positive項目・Negative項目各38項目)について「5.やる気が出る」「4.どちらかと言えばやる気が出る」「3.関係ない」「2.どちらかと言えばやる気がなくなる」「1.やる気がなくなる」の5段階評価とした。<BR>【説明と同意】本調査を実施するにあたり,調査研究目的を対象PTには文書にて説明し,データは統計的に処理すること,その際,個人が特定されることがないよう個人情報保護に十分注意を払うことを伝え,回答用紙の返送により研究同意が得られたとみなした。<BR>【結果】結果は統計解析ソフトSPSS(Ver.17.0)を用いて分析を行った。76項目について平均値を算出し,上位38項目がPositive項目,下位38項目がNegative項目となったことから,別々に因子分析を行った(主因子法,Varimax回転)。Positive項目では4因子が抽出された(α=.898)。第一因子は部門内スタッフの協力や他部門との協力・連携が良好であることに関係する項目であり「協力的風土」と命名した。第二因子では治療業務に専念している時や治療について思考している時などの項目であり,「治療に専念できる環境」と命名した。第三因子は責任ある重要な仕事を担当したり,多忙時でも上司・先輩あるいは部下・後輩からの相談された時で,頼られたり,役立っていると感じる項目であり「有能感」と命名した。第四因子は組織からの報酬2項目で,「昇給・昇進(+)」と命名した。<BR> 一方,Negative項目では4因子が抽出された(α=.815)。第一因子は部門内スタッフの非協力的な項目や他部門からの期待や承認がないことを示す項目であり,「非協力的風土」と命名した。第二因子は治療業務に関する項目で治療視点や方法を思いつかない,ワンパターンなどの項目であり,「治療業務の停滞」と命名した。第三因子は自分の考えた通りに理学療法業務がうまくいかなかった時と治療結果が出なかった時の2項目で,結果がうまくいかなかったことを示す項目であり,「結果不良」と命名した。第四因子はPositive項目の逆2項目であり,「昇給・昇進(-)」と命名した。<BR>【考察】Positive項目とNegative項目ともに「協力的風土」であるか否かが第一因子となっており,部門内および部門外の横のつながりも含めた協力や承認の有無が重要であると推測される。加えて,Positive項目の第三因子「有能感」は責任ある重要な仕事を任されることや上司・先輩だけでなく部下・後輩からも相談を受けることで感じられるものであり,これは縦の対人的関係から得られる報酬と考えることができる。また,第二因子は「治療に専念しやすい環境」で,第一因子「協力的風土」と仕事がしやすいという点で共通している。したがって,職場運営において協力的風土で治療に専念でき,対人的関係からの報酬を得られるようにすることは,PTが意欲的に仕事をすることにつながると考えられた。<BR> これに対し,Negative項目では第一因子「非協力的風土」はPositive項目と対応するが,第二因子「治療業務の停滞」と第三因子「結果不良」で治療業務そのものに関する因子であった。この2因子はPositive項目の因子にはみられなかったことから,ワークモチベーションが下がる場合に特徴的な因子であると言える。したがって,職場運営においては,仕事が停滞しているような場合,職場が非協力的風土になっていないか,個々のPTが治療業務の停滞感を感じたり,結果不良で困ったりしていないかに配慮することが必要であると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】これまで,PTが何によって動機づけられるかを調査した研究はほとんどなく,PTの仕事に対する動機づけやモチベーション管理を含めた人材マネジメントを効果的に行うために,PTのワークモチベーションを客観的に捉えることは重要であると考えられる。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550535168
  • NII Article ID
    130004582973
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.g4p2319.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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