ジグザグ歩行を用いた転倒予測の試み
Description
【はじめに、目的】 高齢者の転倒は,骨折につながり,生活の質の低下,身体機能低下などを引き起こす誘因といっても過言ではない.屋内での転倒は,段差や方向転換が多いことが原因として挙げられている.近年,転倒を未然に防ぐことを目的として,転倒予測の指標を作るための研究がなされてきた.しかし,これらの研究は,狭い空間で行うことが難しい,機器が必要となる,簡便でない,方向転換を含めた歩行場面を再現していないなど課題も多い.そこで,機器を使用することがなく,簡便であり,方向転換を多く取り入れた歩行による転倒指標が必要であると考えた.本研究は,3mの距離で身近にあるペットボトル(500ml)を使用したジグザグ歩行の歩行時間を評価指標とし,転倒予測の評価として用いることができるかについて検討することを目的とした.【方法】 対象は屋外独歩可能な65歳以上の高齢者50名(男性23名・女性27名)年齢73±5.9歳,身長154.3±9.3cm,体重56.7±9.6kgであった.過去1年間の転倒経験の有無をもとに転倒群25名(男性12名・女性13名)と非転倒群25名(男性11名・女性14名)に分類した.転倒群は,年齢73.2±5.9歳,身長153.7±8.0cm,体重57.4±10.2 kg,非転倒群は,年齢72.9±5.6歳,身長155.0±10.8 cm,体重56.1±9.4 kgであり両群の属性に差は認められなかった.なお,測定に影響を及ぼすと考えられる整形外科疾患ならびに中枢神経系疾患などを有する者は除外した.歩行距離は, 3mとしスタート地点とゴール地点に50cmのビニールテープを貼り目印とした.歩行路には,60cm間隔にペットボトルで作成したポール(以下,ポール)を4本設置した.測定は,スタートの合図とともにジグザグ歩行を開始し,ゴールラインを跨いだ時点までとした.また,測定時にポールを跨いだ場合は無効とし再度測定を行った.測定者は1名の検者が,3日以上の間隔をあけて2日間行った.1日目, 2日目ともに測定の前に1回の練習を行い,その後2回の測定を行うこととし,各測定間は1分以上の間隔をあけた.測定値は,2回の測定値のうち最速値を小数点第1位で四捨五入した.統計学的手法は,各検定に先立ち各変数が正規分布に従うかをShapiro-Wilk検定で確認した.その後,検者内再現性には,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下,ICC)と対応のあるt検定を用いた.また,転倒群と非転倒群の歩行時間の群間比較には対応のないt検定を用い,転倒群と非転倒群を最適分類するためにReceiver Operation Characteristic (以下,ROC)曲線を用いてカットオフ値を求めた.統計解析は,SPSS Ver.15J for Windowsを使用し,すべての検定における有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し,書面にて同意を得たうえで実施した.【結果】 Shapiro-Wilk検定の結果,全ての変数が正規分布に従わないとは言えないことが確認された.検者内再現性は,転倒群の1回目の測定値が12.6±2.5秒,2回目が12.6±2.6秒,非転倒群の1回目の測定値が8.7±2.1秒,2回目が8.8±2.0秒であり,対応のあるt検定において差は認められず(p>0.01),ICC(1,1)は,転倒群0.97,非転倒群0.94であった.転倒群と非転倒群の歩行時間の群間比較は,転倒群12.6±2.5秒,非転倒群8.7±2.1秒であり2群間に差が認められ転倒群で有意に増加した(p<0.01).また,転倒群,非転倒群の歩行速度のROC曲線から最も有効な統計学的カットオフ値は10.5秒と判断した.【考察】 本研究はジグザグ歩行の歩行時間を転倒予測の評価指標として用いることができるのかについて検討した. ICCは転倒群,非転倒群ともに高値を示し対応のあるt検定の結果,差が認められなかったことから測定の再現性は良好であると考えた.転倒群,非転倒群の群間比較において差が認められ転倒群の歩行時間が有意に増加した.また,ROC曲線から算出されたカットオフ値は10.5秒(感度80.0%,特異度84.0%)であった.このことから,10.5秒を境界に転倒の起こり得る確率が高くなると考えられ,同時に本テストの検者内再現性も良好であることから,転倒予測の一指標としての応用が期待できると考えた.【理学療法学研究としての意義】 転倒予測を目的とした研究は,数多く報告されているが,これらの方法は,測定に広い場所が必要,高度な機器が必要,歩行場面を再現していない等の問題点が考えられる.また,転倒の原因の一つに方向転換が関係している.本研究で用いたジグザグ歩行テストは歩行に方向転換の要素を取り入れることにより転倒を予測しようと考えた.本法は3mの距離で測定が行え,ペットボトルを使用して測定が行えることから訪問リハビリテーションやスペースの取れない場面などで測定が可能であり転倒予測をする上で有意義であると考えた.
Journal
-
- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
-
Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2011 (0), Ab1322-Ab1322, 2012
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
- Tweet
Details 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680550602880
-
- NII Article ID
- 130004692567
-
- Text Lang
- ja
-
- Data Source
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- Abstract License Flag
- Disallowed