3D-2D Registration法による肩関節外旋運動中の肩甲上腕関節キネマティクス

Description

【目的】<BR>野球における肩関節疾患の発生率は32-35%(Lyman2001、Lyman2002)、外傷歴調査では野球選手の58%が上肢の疼痛経験がある。また肩峰下インピンジメントの存在率は投球肩全体の44-65%であった(Campbell2008)。しかしながら、そのメカニズムに関して、意外にも肩痛と投球フォームや関節の微細運動との関連性は現在まで立証されていない。<BR>野球肩の原因の一つとして、肩関節後方タイトネス(PST)が挙げられる(Burkhart1998、Harryman1990)。PSTは肩甲上腕関節外旋中に上腕骨後上方移動をもたらす(Burkhart1998)。しかし、PSTが実際に生体内にて肩甲上腕関節の異常キネマティクスの原因となるかは解明されていない。そこで、本研究プロジェクトの目的を、「PSTが肩関節外転90°における外・内旋運動中の肩甲上腕関節キネマティクスに及ぼす影響を解明すること」とした。<BR> 上記の研究目的を達成するため、精密なキネマティクス解析技術である3D-2D Registration法が有用である。著者らはすでに投球動作のlate cockingの肩回旋運動をシミュレートする装置を製作し、X線撮像範囲内に確実に肩関節が収まるようになった。次に、X線画像上にブレ(blur)が生じないよう、肩関節外旋運動の角速度を決定する必要がある。今回、肩関節外内旋運動中の肩甲上腕関節キネマティクス解析に用いる運動条件を決定することを目的とした予備実験の結果を報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は28歳男性、肩に手術歴はなく、野球歴は8歳より18歳まで競技レベルで、それ以降はレクリエーションレベルであった。<BR>関節キネマティクスの解析には、3次元骨モデルと2次元透視画像を重ね合わせる3D-2D Registration法(Banks1996)を用いた。上腕骨および肩甲骨の3次元骨モデルは0.5mmスライスで撮像したCT画像から作成した。X線透視画像は、90°外転位での肩関節自動外・内旋運動を前下方からfluoroscopyにて撮像した。<BR> X線画像より撮像中の肩関節外旋角速度を推定した。肩甲上腕関節0°回旋位における関節位置を基準とし、そこからの変位量を算出後、スプライン補間を行いて平滑化した。外旋-20°から100°における10°毎の肩甲骨に対する上腕骨の上下並進移動量、前後並進移動量を算出した。専用に開発したソフトウエアを用い、関節窩および肩峰下面と上腕骨頭との近接領域を定性的に観察した。<BR><BR>【説明と同意】<BR>研究目的、内容およびその価値とリスクを理解した著者の一人が被検者となった。<BR><BR>【結果】<BR> 今回の撮像において画像から推定された肩関節の外旋角速度は約100°/秒であり、画像上のブレは認められず、確実にキネマティクスの分析を実施することが出来た。<BR> 肩関節外旋運動中の上下方向の移動について、上腕骨頭中心は-20°から30°外旋位までに約2.2mm下方に移動し、その後100°外旋位までに約6.6mm上方に移動した。すなわち、-20°から100°までに合計4.4mm上方に移動した。前後の並進について、上腕骨頭中心は-20°にて約13.3mm前方に、30°外旋位では約3.3mm前方に偏位していた。すなわち、-20°から30°までに約10mmの後方移動が認められた。さらに30°から100°外旋位までに約3.6mm前方に移動した。<BR> 近接領域に関する定性的評価では、外旋に伴い関節窩前下方と上腕骨頭との距離が接近すること、大結節が肩峰の直下に位置した際に肩峰と上腕骨頭とが最接近することが観察された。<BR><BR>【考察】<BR> この予備実験により、肩関節の運動範囲、運動角速度、撮像条件などが分析を行う上で問題とならないことが確認された。これにより、PSTと異常キネマティクスの関連性を調べるための研究実施条件が確定された。<BR>肩関節外旋と上腕骨上下変位量の関係は、30°外旋位までに上腕骨頭は下方に移動し、その後、上方への移動が認められた。これは、外旋に伴う肩関節後方組織の緊張が関与した可能性がある。ただし、外旋運動中と内旋運動中で異なる移動が生じていたことは、今後の研究において留意する必要がある。<BR> 近接領域の定性的評価では、外旋に伴う関節窩前下方への上腕骨頭の接近が認められた。これにより、投球動作中の肩外旋が下関節上腕靭帯へのストレスを生む可能性があることが示唆された。また、大結節が肩峰直下に位置する際には上腕骨頭と肩峰とが最接近しており、インピンジメント症候群との関連が示唆された。今後は、この手法を用いてPSTの存在と異常キネマティクスとの関連性を横断研究、介入研究等で検証する。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究は予備研究であり、この結果が臨床に有益な情報を提供するものではない。しかし、今回確立した方法を用いた臨床研究を実施することにより、肩関節異常キネマティクスに及ぼすPSTの影響をin vivoにて検証される。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550626048
  • NII Article ID
    130004582239
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o1127.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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