股関節屈曲角度の違いがQuadriceps setting時の大腿四頭筋の収縮率に与える影響
書誌事項
- タイトル別名
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- 超音波画像診断装置を用いた検討
説明
【目的】臨床では下肢関節形成術後や骨折後に大腿四頭筋(以下,Quad)の筋力増強を目的として,Quadriceps setting(以下,QS)が施行されている.QS時の股関節肢位の違いが大腿直筋(以下,RF),内側広筋(以下,VM),外側広筋(以下,VL)の筋活動に及ぼす影響について表面筋電図を用いた報告は多く見られるが,深層筋である中間広筋(以下,VI)は表面筋電図による筋活動の測定は困難であり,VIに関する報告は我々の渉猟し得る範囲では見当たらない.近年,超音波画像診断装置を用いることにより,従来観察が困難であった深層筋の観察が可能となってきた.そこで今回,我々は超音波画像診断装置を用いて,Quadの安静時及びQS時の筋厚を測定し筋厚を指標とした収縮率を求め,股関節屈曲角度の違いにおけるQuadの各筋の収縮率について検討した.<BR><BR>【方法】対象はSLR75度以上を有し,下肢に整形外科的疾患のない健常成人22名(男女各11名,平均年齢:24.3±3.78歳)とした.QSは利き側下肢で行い,背臥位と股関節屈曲30,45,60,75度位での長坐位の5条件とし,全測定肢位とも股関節内外転・内外旋中間位,足関節底背屈中間位とした.筋収縮は3秒間の最大等尺性収縮を3回行い,2分以上の休息時間を取り入れた.筋厚の測定は超音波画像診断装置Sequoia512(ACUSON社製・7.5MHzリニア式プローブ)を用い,同一検者が行った.測定部位は市橋らの方法を参考とし,RF及びVIは上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上の1/2,VLは同線上の遠位1/3から3cm外側,VMは膝蓋骨上から45度5cm内側で筋厚を測定した.収縮率は安静時及びQS時の筋厚の平均値より求め,各筋の股関節屈曲角度間及び各測定肢位の筋間の影響について二元配置分散分析を用い,有意差が生じた場合は多重比較検定(Tukey法)を用いた.有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨と方法を十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した.<BR><BR>【結果】全測定肢位における各筋の収縮率(%)を背臥位,股関節屈曲30,45,60,75度の順に示す.RFは17.8±11.3→20.0±13.2→20.5±12.1→23.8±14.6→24.5±12.6%,VIは9.7±12.7→28.4±17.8→30.8±17.4→33.7±20.9→37.0±22.0%,VMは26.7±15.1→30.2±16.4→28.4±15.0→32.2±17.3→31.6±15.7%,VLは29.5±20.4→40.0±24.5→41.4±19.3→44.1±21.6→38.9±22.0%であった.各筋の股関節屈曲角度間における影響は,VIにおいて背臥位と比較して股関節屈曲30,45,60,75度位は有意に高い結果となった(p<0.05).各測定肢位での筋間における影響は,背臥位においてVIと比較してVLの収縮率が有意に高く,股関節屈曲30,45,60度位においてRFと比較してVLの収縮率が有意に高い結果となった(p<0.05).<BR><BR>【考察】VIの収縮率は,背臥位と比較して股関節屈曲位で高い結果となった.この理由として,股関節屈曲位ではRFが短縮位となり弛むことから,RFの深層に位置するVIの筋厚が増加しやすかったためと考える.<BR>股関節屈曲30,45,60度位ではRFと比較してVLが高い結果となった.この理由として,各筋の横断面積の差が影響していると考える.角田らはQuadの中でVLは最も横断面積が大きく,膝伸展に最も関与していると報告している.岡らはVIとVMの最大横断面積はほぼ同様であり,VL,VM・VI,RFの順に横断面積が大きいと報告している.今回の結果から,VLは膝伸展に非常によく関与しているため,全測定肢位においてVLの収縮力が高まったと考える.またRFは最も横断面積が小さく,膝関節の全伸展トルクの20%を担うことから,背臥位を除く股関節屈曲位において収縮力が低かったと考える.<BR>股関節屈曲位ではRFの収縮率が他筋と比較して最も低かったが,背臥位のみRFよりもVIが最も低く,VLが高い結果となった.この理由として,背臥位ではRFは伸張位であり,VIの筋厚増加を妨げた可能性があると考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】林らによると,VIは膝蓋上嚢と付着しており,VIの収縮は膝蓋上嚢の癒着予防に効果的であり,膝関節伸展拘縮予防の観点からも重要であると報告している.本研究において股関節屈曲位でのQSはVIが収縮しやすいことから,膝関節伸展拘縮予防に効果的である可能性が示唆された.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C3O1129-C3O1129, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680550629632
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- NII論文ID
- 130004582241
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可