Cortical silent periodの客観的検出法の検討

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抄録

【目的】経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation, TMS)による皮質脊髄路興奮性の評価は広く臨床応用されており、計測パラメーターの一つとして、cortical silent period(CSP)が用いられている。CSPとは、随意収縮中に一次運動野磁気刺激後MEPが生じた直後から一時的に筋活動電位が抑制される現象である。CSP持続時間はMEPが終了し、基線に戻った時点から随意収縮による筋活動電位が再び開始するまでの時間を測定する方法とTMS刺激時あるいはMEP onsetから随意収縮による筋活動電位が開始するまでの時間を計測する方法がある。CSP計測の際、低振幅の筋活動電位が混入することにより完全には消失しない場合があり、従来のCSPの検出は目視など主観的方法を用いてきた。本研究はCSPの客観的検出法の確立を目的とした。<BR>【方法】健常成人5名(男性1名、女性4名、年齢:23-24歳)を対象とした。MEPは左右の第一背側骨間筋(first dorsal interossei, FDI)に表面電極を配置し(Bagnoli-16 EMG SYSTEM, DELSYS)、サンプリング周波数4 kHzで記録した(PowerLab, ADInstruments)。磁気コイルは8の字コイル(DOUBLE 70MM COIL, Magstim)を用い、片手FDI収縮時に単発刺激を行った(Super Rapid, Magstim)。筋収縮計測にはピンチメータ(Hydraulic Pinch Gauge, Baseline Evaluation Instruments)を用い、刺激時に左右それぞれのFDIについて最大筋収縮の50%以上を約1秒間保つよう教示した。安静時における左一次運動野TMSにおいて、右FDIから50%以上の確率で50 μV以上のMEP振幅が得られた強さを運動閾値(motor threshold, MT)とした。TMSはMTの100%,110%,120%,130%の強度を用い、右または左FDI筋収縮中に10施行ずつ計測した。記録された筋電図データを全波整流し、移動平均処理(2.5 ms)の後、10施行の平均波形を算出した。また、平均波形のTMS前10 msにおける平均値(M)と標準偏差(SD)を算出し、TMS後に平均波形がM-2SDを下回り、次にM-SDを上回るまでの時間領域をCSPとした。<BR>【説明と同意】被験者には書面での説明を行い、署名にて同意を得た。<BR>【結果】TMS刺激半球と対側である右FDIから測定されたCSPは、被検者すべてにおいてTMS刺激強度の増加に伴いCSP持続時間の延長が見られた(100% 29.3±15.3 ms、110% 54.8±24.4 ms、120% 76.6±34.2 ms、130% 94.5±39.6 ms)。TMS刺激半球と同側である左FDIからの測定では、2名がMT高値時にのみCSPが検出された。すべてのTMS強度においてCSPが検出された3名では、右FDIより計測された割合と比べ低値であったが、持続時間の延長がみられた(100% 11.1±6.8 ms、110% 15.2±2.9 ms、120% 18.6±0.9 ms、130% 22.1±3.6 ms)。CSPの潜時は左右ともにTMS刺激強度に依存せず、ほぼ一定であった(右CSP:100% 51.8±1.3 ms、110% 49.5±5.7 ms、120% 49.8±4.8 ms、130% 50.3±6.4 ms、左CSP:100% 33.8±2.2 ms、110% 34.2±1.2 ms、120% 33.9±2.1 ms、130% 34.3±2.6 ms)。<BR>【考察】本研究で得られた対側CSPでの、TMS刺激強度の増加に伴い持続時間が延長する結果は、従来のCSP検出法による研究結果と合致しており、本客観的評価法の有用性が考えられる。また、本研究で用いたCSP評価法において、TMS刺激側と同側である左FDIでのCSPにおいても、右FDIに比して低値であるが、持続時間の延長が測定された。これまでのCSP検出法では、潜時の検出にMEPの出現を前提とし、筋活動電位が再度観測できるまでを持続時間としている。同側の筋においてTMSによるMEPを検出することは難しく、これまでの方法では同側のCSPを検出することができない。本方法は筋活動電位の一過性消失のみを検出する方法であり、同側においてもCSPを検出することが可能であると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究はCSP検出法として、客観的な方法を確立することを目的とした。臨床場面にて、CSPはパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脳血管障害、脊髄小脳変性症などの臨床評価に応用されようとしているが、従来の主観的方法では評価者により結果が一意に決まらない問題が生じる可能性があった。客観的方法を導入することによりそのような問題が軽減することができると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AcOF2009-AcOF2009, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550663168
  • NII論文ID
    130005016703
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.acof2009.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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