異常歩行パターンが呼吸循環応答に及ぼす影響

DOI
  • 高橋 一揮
    東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科
  • 西山 徹
    東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科
  • 小野部 純
    東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科
  • 藤澤 宏幸
    東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科

書誌事項

タイトル別名
  • 健常者における足関節背屈制限時の歩行パターンによる検討

抄録

【目的】<BR> 脳卒中片麻痺患者における歩行の獲得は,日常生活のみならず社会参加を促すうえでも重要な因子である。そのため,早期からいわゆる正常に近い形を目標とした歩行練習が実施される。一方で運動麻痺の影響により関節拘縮などが生じ,異常な歩行パターンを呈することも多い。脳卒中片麻痺患者における歩行の研究の多くは,片麻痺歩行の特性と歩行能力改善に関するものであり,異常歩行パターンをエネルギー消費量の観点から検討している報告は見当たらない。よって本研究の目的は,歩行の再建における基礎的研究として,足関節背屈制限時に見られる歩行パターンを4種類に分類し,その際の呼吸循環応答を検討することとした。<BR>【方法】<BR> 対象は健常成人男性8名(年齢:22.7±0.5歳,身長:167.4±7.2cm,体重:61.9±0.5kg;平均±標準偏差)とした。除外基準はトレッドミル歩行に影響をきたすような整形外科的疾患を有する者,呼吸器・循環器に障害を有する者とした。測定条件は右足関節に0度の背屈制限(底屈制動なし)を設けたダブルクレンザック装具を装着した状態で,ぶん回し歩行と前型歩行,外旋歩行,つま先歩行の4つのパターンでの歩行を行うこととした。測定方法は3分間の安静時データを取得した後に,装具を装着しない状態で3分間の歩行を行った。その後10分間の安静を取り,4つの歩行パターンを各3分間の計12分間実施した。歩行パターンの順序はランダムに選択された。歩行速度は横断歩道を安全な時間内に渡りきれる3.6km/hとし,トレッドミル(ミナト医科学株式会社製AUTORUNNER SR-200)上にて実施した。測定項目は,酸素摂取量と心拍数,分時換気量,ケイデンスとした。データ処理として,呼気ガスデータは呼気ガス分析装置(ミナト医科学株式会社製Aeromoniter AE-300S)にて解析し,各条件の測定値は各条件の終了前30秒間のデータを平均化した値とした。測定環境は室温を20から23度,湿度を40から60%として生理学的反応に影響を来たさない同一の場所にて実施した。統計処理にはSPSS13.0Jを用い,歩行パターン間の比較として一元配置分散分析を,post hoc testとしてTukeyの方法を用いた。有意水準は5%とした<BR>【説明と同意】<BR> 対象者にはヘルシンキ宣言に従い,口頭及び文章にて研究の説明を充分に行った上で書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> エネルギー消費量を示す酸素摂取量はぶん回し歩行で17.4±1.5ml/min/kg,前型歩行で21.8±2.6ml/min/kg,外旋歩行で16.7±2.1ml/min/kg,つま先歩行で16.3±1.8ml/min/kgとなり,前型歩行が他の歩行パターンと比較し有意(p<0.005)に高値を示した。心拍数および分時換気量においても同様に前型歩行が有意に高値(p<0.05)を示した。ケイデンスはぶん回し歩行で101.2±7.3steps/min,前型歩行で151.3±18.9 steps/min ,外旋歩行で112.2±5.3 steps/min,つま先歩行で113.5±8.0steps/minとなり,前型歩行が他の歩行パターンと比較して有意(p<0.005)に高値を示した。<BR>【考察】<BR> 脳卒中により片麻痺を生じると麻痺側下肢において歩行の基盤となる立脚期の支持機能や遊脚期の振り出しを低下させ,結果として歩行能力を低下させる。筋緊張異常などにより生じる関節拘縮は,歩行における左右対称性を容易に喪失させ,持久力の低下を招く。よって,エネルギー消費量を考慮して異常歩行パターンを検討していくことは重要であると考えられる。足関節背屈制限にて実施した本研究の結果,前型歩行で有意に呼吸循環応答の項目が高値を示した。これは前型歩行では,足関節を背屈にできないため常に麻痺側を前方にして行う。そのため麻痺側前遊脚期のpush offによる推進力が得られず,振り子状にスイングすることが出来なくなり,遊脚期においても筋活動が大きく要求されたと考えられる。加えて,ケイデンスが有意に増大していたことからも歩幅が小さくなっていることが示され,結果としてエネルギー消費量が増大したと考えられる。よって,脳卒中片麻痺患者における異常歩行パターンによってもエネルギー消費量が異なっている可能性が示唆された。しかし,対象者が健常者であることや,足関節以外には制限を設けなかったことなど本研究の結果をそのまま脳卒中患者に適応することは難しいため,今後更なる検討が必要であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 脳卒中片麻痺患者の歩行再建は,安定性を確保した上で持久力や歩行速度の向上を目指して実施されている。しかし,異常歩行パターンによっては運動強度が高く,呼吸循環器系への負担が大きくなる可能性が示唆されたため,各々の歩行パターンにおける至的歩行速度の検討が必要であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AcOF2015-AcOF2015, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550668160
  • NII論文ID
    130005016709
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.acof2015.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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