階段降段時における足底および足指による感覚探索運動

  • 本間 彩夏
    公立学校共済組合 東北中央病院 リハビリテーション室
  • 遠藤 瑞希
    鶴岡協立リハビリテーション病院 リハビリテーション室
  • 戸谷 泰秀
    山梨リハビリテーション病院 リハビリテーション部理学療法課
  • 高橋 俊章
    山形県立保健医療大学

Description

【はじめに、目的】 足底は感覚情報を得るために,無意識であるが積極的かつ能動的に外界を探索している感覚器官であると言われている。足底での探索運動は降段動作など活動が困難になる程より必要になると考える。先行研究において足底感覚と階段動作の関係についての研究は少なく,探索が具体的にどの部位でどのような運動を行っているのか検討されてはいない。そこで本研究の目的は,降段動作における足部の感覚探索運動を明らかにし,各感覚情報を制限した時に起こる運動や身体への影響を検討することである。【方法】 対象は健常青年12名(男女各6名,年齢21.5±0.9歳,身長163.8±6.2cm,体重56.4±6.8kg)とし,段鼻に滑り止めを設置した3段の階段(踏面30cm,蹴上げ20cm)を用い,通常通り・最高速度・視覚情報を遮断した状態・探索運動を制限した状態の4課題で各3回ずつ降段した。視覚遮断にはアイマスクを使用し,探索運動の制限ではテーピングを用いた。降段は左下肢より開始し,開始側以外は被験者の自由とした。機器は三次元動作解析装置(VICON370)を使用し関節角度(頸部屈曲,体幹前後傾と側屈,股・膝・足関節屈伸)と外果-段鼻間距離を測定した。身体標点として,頭頂・C7・Th12・両側の肩峰・ASIS・股関節・膝関節裂隙・外果・第5中足骨頭・上腕骨外側上顆・左尺骨茎状突起の計18点に,さらに階段の2段目の端に反射マーカーを貼付した。また,ビデオカメラ2台を用い足底および足指の探索運動を観察した。統計解析は,関節角度と外果-段鼻間距離について各課題間の差を比較するため一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定を用い,頸部最大屈曲の時期および探索運動の出現回数の偏りを分析するためχ2検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には口頭と書面にて本研究の内容を説明し同意を得た。【結果】 接地時の足指の運動(足指屈曲,足指伸展)と足部の運動(回内外,アーチが上昇し足底面が床面を捉えようとする動き)は視覚遮断で他課題よりも増加する傾向があった。下降側足関節は底屈し足指は伸展位であり,接地が足指から母指球部で開始されていることは全課題で共通していた。全課題において有意に足指が滑り止めにかかっていた(p<0.01)。頸部屈曲角度は視覚遮断で他課題より有意に小さくなった(p<0.01)。頸部の最大屈曲が起こる時期は,最高速度において,他課題と比較してより動作の前期となる傾向がみられた。膝関節屈曲角度は最高速度に比べ視覚遮断で有意に大きかった(p<0.05)。足関節底屈角度は最高速度で他3課題より有意に小さかった(p<0.01)。体幹の前後傾幅は最高速度で有意に大きく(p<0.01),側屈幅は視覚遮断で有意に大きかった(p<0.01)。股関節屈曲角度と外果-段鼻間距離は各課題で有意な差はなかった。【考察】 本研究では足部の感覚探索運動として,足底接地が足指から母指球部で開始され,その後足指の屈伸,足部の回内外とアーチ上昇の運動が観察された。また,各課題の70%以上において足指が滑り止めにかかっていたことから,滑り止めを有効に利用し段鼻を探索したと考えられる。足底では足指に感覚受容器の分布密度が高いことから,接地に先行して見られた足関節の底屈と足指伸展傾向となる特徴は,より鋭敏な部分で探索しようとする予測的な構えであると考える。接地後にも足部の運動を行うことで,接地面を探索し続けている。頸部最大屈曲が最高速度では動作前・動作初期で最も起こっており,視覚遮断では屈曲角度が有意に減少していた。このことは,頸部屈曲は視覚情報を得るための動きであり,素早い動作を行おうとする時には,バランス制御のため動作前に視覚情報をより必要とするためと思われる。また,足底の運動が最高速度では減少し,視覚遮断で増加したという結果から,最高速度課題のように視覚情報を動作初期に多く得られた場合では体性感覚の必要性が低下し,視覚情報が得られなかった場合では体性感覚がより重要となるので,視覚遮断において探索運動が増加したと考える。先行文献では体性感覚情報が崩壊すると,その体性感覚の情報源としての重要性は減少し,相対的に他の感覚情報を活用し始めると言われており,今回の動作中でも視覚と体性感覚は協調的に利用されていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 降段動作における足底および足指の探索運動の構成と,足底感覚と他の身体部位との関係を明らかにすることは,感覚運動障害のある対象者の降段動作において有効なアプローチを行うために役立てられると考えられる。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550726144
  • NII Article ID
    130004692545
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1300.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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