歩行速度の変化が体幹運動に及ぼす影響

  • 三谷 保弘
    四條畷学園大学リハビリテーション学部理学療法学専攻
  • 向井 公一
    四條畷学園大学リハビリテーション学部理学療法学専攻

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【目的】<BR> 歩行の動作様式は画一的なものではなく、環境や場面、歩行速度の変化に応じて身体運動を適宜変化させている。近年、あらゆる動作を円滑に遂行するためには体幹機能が重要であるとの認識が高まっている。歩行においても同様に体幹機能が重要であると考えられ、歩行条件に応じて体幹運動を適宜変化させることにより円滑な歩行を可能にしていると考えられる。円滑な歩行を獲得するうえで体幹機能は重要であると考えられるが、歩行条件に応じてどのような体幹運動が生じているかについては十分な検討がなされていない。そこで今回、自然歩行時および努力歩行時の体幹運動を計測し、歩行速度に応じた体幹運動の特徴について検討したので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は健常成人29名(男性14名、女性15名、平均年齢20.3±1.0歳)とした。自然歩行時および努力歩行時の身体運動を三次元動作解析装置(VICON512)を用いて計測した。対象者の頭頂、両側の肩峰、股関節、膝関節外側、腓骨外果、第5中足骨頭に赤外線反射マーカを貼付し、6台の赤外線カメラにて撮影した。サンプリング周波数は120Hzとした。測定項目は、重複歩距離、一歩行周期に要する時間、頭頂部と身体重心の左右方向への変位、体幹各部の角度変化とした。計測室内の歩行路を対象者が最も歩きやすい速さ(自然歩行)と最大限の速さ(努力歩行)で歩行し、左踵接地からの一歩行周期について計測した。自然歩行および努力歩行ともに3回の計測を実施し、その平均値を計測値とした採用した。自然歩行時と努力歩行時の計測値の比較には、正規性の有無に従い対応のあるt検定もしくはWilcoxonの符号付順位検定を行った。いずれも有意水準は0.05未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究目的と方法について書面および口頭にて十分な説明を行い、研究同意書に署名を得た。なお、研究の実施については四條畷学園大学倫理委員会の承認を得た(承認番号21-5)。<BR>【結果】<BR> 重複歩距離は自然歩行時1.40±0.15m、努力歩行時1.64±0.22mであった。一歩行周期に要する時間は自然歩行時1.02±0.07sec、努力歩行時0.80±0.07secであった。頭頂の左右方向への変位は自然歩行時0.046±0.020m、努力歩行時0.042±0.024mであった。身体重心の左右方向への変位は自然歩行時0.028±0.009m、努力歩行時0.020±0.008mであった。体幹の前傾角度は自然歩行時0.3±2.6°、努力歩行時2.9±4.3°であった。骨盤回旋角度は自然歩行時19.3±4.5°、努力歩行時24.8±7.8°、上部体幹回旋角度は自然歩行時7.3±2.2°、努力歩行時9.6±3.7°であった。いずれにおいても、自然歩行時と努力歩行時との間に統計的有意差を認めた。<BR>【考察】<BR> 自然歩行時に比べて努力歩行時には、重複歩距離が増大し一歩行周期に要する時間が減少した。これは、努力歩行時において歩幅および歩行率が増大したと換言でき、従来からの報告のごとく歩行速度の調節にはこれらの要因が関係していることが明らかとなった。頭部および身体重心の左右方向への変位は自然歩行時に比べて努力歩行時に小さく、速度の増加に伴い左右方向への動揺を軽減させ時間的損失を最小限にしているものと考えられる。自然歩行時に比べて努力歩行時には体幹が前傾位となり、これは上半身重心を前方に変位させることにより歩行の推進力を得ているものと考えられる。骨盤、上部体幹の回旋運動についても自然歩行時に比べて努力歩行時に大きかったが、これは歩幅の増大に伴うものと考えられる。ただし、努力歩行時には歩行率も増大するため骨盤および上部体幹を大きくかつ素早く動かす必要性が生じる。左右方向への動揺の抑制や体幹を前傾位に保持すること、骨盤および体幹を大きくかつ素早く回旋させるためには、体幹機能が多大に貢献していると推察できる。本研究から、歩行速度の変化に伴い頭部および体幹運動を変化させていることが明らかとなり、それに伴う体幹機能の重要性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の研究から、歩行速度に応じて頭部および体幹運動を適宜変化させていることが明らかとなった。理学療法においても、これら歩行条件の変化に応じた適切な身体運動を誘発させるべく、体幹機能に着目したアプローチを行うことが重要であると考えられた。今回、具体的な介入方法を検討するに至らなかったが、体幹機能を向上させることにより円滑な歩行を獲得するための可能性を得たことについて臨床的意義を有すると考える。

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