Balance Evaluation Systems Test(BESTest)の使用経験

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  • 基準関連妥当性,セクションの難易度,疾患別の特徴に着目して

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説明

【目的】<BR> Balance Evaluation Systems Test(BESTest)ではバランス障害に対して特異的に介入できるようバランスを6つのシステムとして捉えている。セクションは「1.生体力学的制限」、「2.安定性」、「3.予測的姿勢制御」、「4.姿勢反応」、「5.感覚適応」、「6.歩行安定性」である。<BR> 第45回全国理学療法学術大会にて、BESTestの理学療法介入における有用性をシングルケーススタディにて報告した。本研究では様々な疾患に対してBESTestを使用し、Berg Balance Scale(BBS)・Timed Up and Go test(TUG)、更にFranchignoniら(2010)により開発されたmini-BESTestとの基準関連妥当性および各セクションの難易度、疾患別の特徴を検討したので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は当院に入院もしくは通院中に歩行が監視または自立であった者33名(男性18名、女性15名、平均年齢71.3±11.2歳)とした。内訳は脳卒中者11名、整形外科者14名、脊髄損傷者4名、下腿切断者2名、運動失調者1名、関節リウマチ者1名であり、歩行監視6名、歩行自立27名であった。被験者にはBESTest、BBS、TUGを1週間以内に実施した。mini-BESTestはBESTestの各項目より抽出し採点した。妥当性の検討にはSpearmanの順位相関を用いた。BESTestの各セクションの難易度を検討するためFriedman検定、多重比較にはWilcoxonの符号付順位検定を行った。疾患別の特徴は脳卒中者と整形外科者に対してMann-WhitneyのU検定にて群間比較を行った。なお、有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR>本研究の趣旨を説明し書面にて同意署名を得た。<BR>【結果】<BR> 各評価の中央値(四分位)は、BESTest:全体78.7(66.2-85.2)%、1.73.3(60.0-80.0)%、2.85.7(76.2-87.3)%、3.66.7(56.6-83.3)%、4.77.8(69.5-94.4)%、5.93.3 (80.0-100.0) %、6.76.2(69.1-85.7)%、BBS52.0(49.0-55.0)点、mini-BESTest75.0(56.3-82.9)%、TUG11.5±4.0 秒(平均値±標準偏差)であった。今回、BBSで満点を獲得した者は8名で、その被験者のBESTest中央値は77.8%、82.4%、85.2%、86.1%、91.7%、96.3%、96.3%、100.0%であった。また、BESTestの項目で全ての被験者が満点を獲得したのは「立位での上肢挙上」、「床での開眼立位保持」であった。<BR> BESTestとの関連性はBBSとrs=0.75、TUGとrs=-0.61、mini-BESTestとrs=0.92で有意な相関が認められた(p<0.01)。<BR> BESTestの各セクション別ではセクション1と2、1と5、2と3、2と5、2と6、3と5、3と6、4と5、5と6間に有意差が認められた。<BR> 疾患別の特徴としては中央値が脳卒中者:全体77.8%、1.73.3%、2.81.0%、3.72.2%、4.77.8%、5.93.3%、6.81.0%であり、整形外科者:全体80.6%、1.73.3%、2.85.7%、3.66.7%、4.88.9%、5.93.3%、6.76.2%であった。両疾患を比較すると脳卒中者はセクション4が、整形外科者セクション3、6が低値を示した。統計解析の結果、2群の各セクション間に有意差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> BESTestはBBS、TUGと有意な相関があったことからバランス評価としての基準関連妥当性が確認された。BBSで天井効果を示した被験者でもBESTest満点者は1名のみであったため、BESTestはバランス能力の高い被験者の評価に有用であると考えられた。また、BESTestから14項目を選抜し「機能的なバランス」評価のために開発されたmini-BESTestはBESTest と強い相関関係が認められた。そのため、時間的制約がある場合はBESTestに代わるバランス評価として有用であると考えられた。しかし、mini-BESTestはセクション分けがなく、バランスの問題要素を明確にしにくいため介入展開が不十分であるという問題点も考えられる。<BR> 各セクションの難易度は「安定性」、「感覚適応」で低く、「生体力学的制限」、「予測的姿勢制御」で高い傾向であった。BESTestはシステム理論に基づきバランスを6セクションに分けている。各セクション間に難易度の違いを認めたことから、各セクションのバランス能力への影響度が異なり、歩行が監視以上の被験者においては「生体力学的制限」、「予測的姿勢制御」の影響が強い可能性が示唆された。<BR> 疾患別の特徴は脳卒中者では「姿勢反応」が、整形外科者では「予測的姿勢制御」、「歩行安定性」のセクションが低い傾向が示された。統計学的有意差は認められなかったが、結果は各疾患におけるバランスの問題要素を示す上での基礎データになるのではないかと考える。<BR>今後は、更に症例数を重ね対象者を明確にした上で疾患特性や転倒のCutoff値を検討していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> BESTestのバランス評価としての妥当性が確認され、各セクションはバランスへの影響度の違いを反映している可能性が考えられた。また、BESTestは疾患別の特徴を示す可能性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AcOF1014-AcOF1014, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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