THA術後急性期における安全かつ実用的な起き上がり動作の検証

DOI
  • 山原 純
    国立病院機構 大阪南医療センター リハビリテーション科
  • 萩尾 佳介
    国立病院機構 大阪南医療センター 整形外科
  • 谷口 陽一
    国立病院機構 大阪南医療センター リハビリテーション科
  • 稲場 仁樹
    国立病院機構 大阪南医療センター リハビリテーション科
  • 坂 浩文
    国立病院機構 大阪南医療センター リハビリテーション科
  • 農端 芳之
    国立病院機構 大阪南医療センター リハビリテーション科
  • 齊藤 正伸
    国立病院機構 大阪南医療センター 整形外科

抄録

【はじめに,目的】合併症予防の観点から,人工股関節全置換術(THA)後患者の早期離床は極めて重要である。従来のリハビリテーションにおいて,脱臼予防を前提とした早期離床のための起き上がり動作の指導が術前後に行われている。しかし,いくつかある指導方法の中でどの方法がより安全で実用性が高いかを検証した報告は見当たらず,体系的な指導はなされていない。今回,THA術後急性期患者を対象に,各種起き上がり動作時の関節角度,動作時間などの客観的評価のみならず疼痛などの主観的評価を加えて分析し,指導すべき安全かつ実用的な起き上がり動作を検証した。【方法】対象は2013年6月から2014年2月の期間に,当院にてTHAを施行した術後第7病日の患者18例であり,原疾患は変形性股関節症16例,大腿骨頭壊死2例であった。性別は男性4例,女性14例,手術時平均年齢は67.9±10.4歳であった。手術は全例とも後側方アプローチで施行されていた。測定手順は,まず対象者に起き上がり動作の方法を学習させるために,研究補助者が各動作方法を実施した。また起き上がり動作は楽な速度でよいことを対象者に指示した。次に対象者の体表に赤外線反射マーカーを装着した。ベッドのマットレスはピュアレックス(モルテン社)を用い,ベッド柵は取り除いた。その後,対象者に6種類の起き上がり動作をランダムに実施した。その際,赤外線位置センサーMAC 3D systemTM(Motion Analysis社)を用いて各起き上がり動作における関節角度と動作時間を計測した。また各起き上がり動作終了時にvisual analogue scale(VAS 0-100 mm)を用いて疼痛と困難感を計測した。起き上がり動作はベッド上背臥位から静止端座位に至るまでと定義した。6方法の起き上がり動作は,背臥位から長座位に移行し,そこから術側方向と非術側方向にそれぞれ,術側下肢の移動に自己介助を用いずに降りる方法(術側介助なし,非術側介助なし),術側下肢の移動に上肢の自己介助を用い降りる方法(術側上肢介助,非術側上肢介助),術側下肢の移動に非術側下肢の自己介助を用い降りる方法(術側下肢介助,非術側下肢介助)にて実施した。この各起き上がり動作を3セット実施した。評価項目は,各起き上がり動作の術側股関節最大屈曲角度(°),最大内転角度(°),最大内旋角度(°),動作時間(秒),疼痛(mm),困難感(mm)とした。股関節角度の算出はSIMM(Musculographics社)を用いた。各評価項目は3セットの平均値を採用し,18名の平均値を算出した。6方法間の評価項目の比較は一元配置分散分析と多重比較を用い,有意水準は危険率5%未満とした。【結果】各起き上がり動作時の術側股関節最大屈曲角度は61~63°,内旋角度は13~20°であり,屈曲角度と内旋角度は各方法間に有意差を認めなかった。内転角度は術側方向の3方法が5~6°,非術側方向の3方法が13~14°であり,術側方向に降りる3方法は非術側方向の3方法よりも有意に低値を認めた。各起き上がり動作時の動作時間は術側介助なし8.9秒,非術側介助なし9.2秒,術側上肢介助14.7秒,非術側上肢介助12.9秒,術側下肢介助12.8秒,非術側下肢介助12.2秒であった。介助なしの2方法は上肢介助の2方法よりも有意に時間は短かった。疼痛は5~12 mm,困難感は7~17 mmであり,各項目とも各方法間に有意差を認めなかった。【考察】各方法での起き上がり動作時に認めた股関節屈曲角度は61~63°,内旋角度は13~20°,内転角度は5~14°であり,脱臼に対しては安全な可動範囲内であったと考えられる。しかし,内転角度は術側方向と比較して非術側方向に降りる際に高値であり,術側方向に降りる方法がより安全であったと思われる。動作時間については,介助なしの方法が上肢介助の方法よりも短時間で起き上がることができており,介助ありの方法は手順が多く時間を要したと考えられる。疼痛,困難感は各方法間に有意差を認めず,疼痛,困難感はいずれの方法も低値であったことから,主観的評価の観点からはどの方法を指導しても問題はないと考えられる。本研究より,THA術後急性期に指導する起き上がり方法は,術側方向へ介助を用いずに起き上がる方法が最も安全かつ実用的であることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】これまで健常者や高齢者の起き上がりを分析した報告はあるが,THA術後患者の起き上がり動作を分析した上に,加えてその実用性まで着目した研究は皆無である。THAの周術期リハにおける体系的な動作指導の一助となることが期待される。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550927488
  • NII論文ID
    130005248094
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.0417
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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