アウトカム基盤型教育の導入による臨床医学教育の試み

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  • 学習者と教育者の視点

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抄録

【はじめに,目的】The Institute for International Medical Education(以下,IIME)は医学教育における教育目標として7項目のGlobal Minimum Essential Requirements(以下,GMER)を掲げている。当科では平成24年度より従来の教育基盤型からIIMEのGMERを考慮したアウトカム基盤型教育を取り入れた臨床医学教育を実践している。アウトカム基盤型は学習者の能動的学習を支援するため最終的な到達目標が明確になり自らの学習に責任を持てるようになるとされている。本研究ではアウトカム基盤型教育導入後の結果について,学習者と教育者の視点より考察し,報告する。【方法】対象は平成24年度新入職員である学習者20名と教育者37名。教育者は学習者が能動的に学習できるよう一般目標とそれを達成するための行動目標(群)の設定,省察や問題解決を援助する関わりを持つ環境であった。方法は自記式質問票で自由記述の調査票を用い,学習者・教育者の各々が学習者の学習アウトカムを達成するための一般目標の経時的変化を平成24年5月から9月の5回に渡り,調査。分析は記述された一般目標を,用語を理解した3名により7つのGMERに分類し,各項目の割合を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理委員会において承認を受けた後に実施した。また,対象者には調査の主旨と自由意志について説明し同意を得て調査した。【結果】調査票の回収率は平均83.5%。一般目標の全体的な傾向として学習者はコミュニケーション技術,職業人としての価値・姿勢・態度・倫理,医学における科学的基礎の順で多く,教育者は職業人としての価値・姿勢・態度・倫理,コミュニケーション技術,臨床技能の順に多い割合で目標を挙げていた。特に職業人としての価値・姿勢・態度・倫理は両者において,2ヶ月目より多く挙げられ,高い割合のまま推移している。医学における科学的基礎は学習者が2ヶ月目より多くが目標として掲げ,上位の項目として推移しているが,教育者は全体を通じて,ほとんど目標として挙げていない。臨床技能は両者において目標に挙げられており,学習者においてより高い割合となっている。【考察】学習者が一般目標に医学における科学的基礎を挙げているのに対して,教育者はほとんど挙げていない。学習者は患者治療の振り返りから基礎医学を臨床と結び付け,知識の不十分さを未熟な状態の一要因にしたと考えられた。教育者の立場では,他の項目と比較して学習者個人の活動により修得する要素が多いことや教育者の具体的な支援方法が知識の伝達となりやすいことが影響しているのではないか。部署の教育方針として,教育者が何かを教え込むという役割から学習者が主体的に学習することを援助する役割へと意識的に転換したため学習者中心の考え方が教育者に浸透したためと考えた。学習者・教育者ともに職業人としての価値・姿勢・態度・倫理が2ヶ月目より目標に多く挙げられ,高い割合のまま推移しているのは,部分的な患者介入が開始となり,臨床業務の実践が時間の概念を意識することや出来事を内省し自己を認識する機会が増えたためではないか。そのような環境の下から両者が共通の項目を課題と捉えて目標に掲げていることは,クリニカル・クラークシップによる部分的治療参加や監視下での治療介入,面談による自らの課題を抽出する援助,一般目標と行動目標の設定・振り返りなどのポートフォリオにより,教育者が学習者の課題を把握し,学習者の主体な学習を支援できていたのではないかと考えた。また,両者において7つの項目のうち公衆衛生および医療保健福祉制度,情報管理,批判的思と研究の3つがほとんど目標に挙げられておらず,GMERで必須とされている項目をバランスよく満たしているわけではない。これは3項目が学習目標として,ある程度の能力的に充足されている,あるいは不足面を中心とした学習と援助となっていた可能性が考えられる。7つのGMERのバランスを考慮し偏った教育にならぬような教育者側の視点も必要なのではないか。今後は構成要素として7項目を考慮したコア・カリキュラムとしての目標を提示することが課題である。【理学療法学研究としての意義】学習者と教育者の視点からアウトカム基盤型教育導入の振り返りにより,現状分析と課題を抽出した。アウトカム基盤型教育を導入することにより,学習者のみならず教育者も能動的に学習し,変化する生涯学習者となる可能性が示唆された。臨床医学教育において,変化する時代の中で自分の知識を応用し,能動的な学習により変化できる人材を育成することが必要である。

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