人工膝関節置換術後患者の階段昇降時間と足部柔軟性の関連についての検討
説明
【はじめに,目的】人工膝関節置換術(knee joint replacement;KJR)は良好な術後成績が報告されているが,日常生活における階段昇降動作などに対して,10-20%の患者の満足度が低いとされている(中村,2011)。我々は,患者の階段昇降満足度と昇降時間に関連があることを先行研究にて確認した。本研究では膝関節機能に加えて荷重位足部柔軟性を評価し,階段昇降時間に関わる身体機能を検討することで,今後の理学療法アプローチ再考の一助にすることを目的とした。【方法】当院で片側KJR(人工膝関節全置換術:TKA,単顆置換術:UKA)を施行し,術後2か月以上経過した症例を対象とした。除外基準は当院プロトコール逸脱症例,重篤な内部疾患,心疾患を有する症例,他関節の手術既往がある症例,高次脳機能障害や認知症などを有する症例とした。評価項目は膝関節屈曲可動域(以下,膝ROM),等尺性膝関節伸展筋力(以下,膝筋力),荷重位での足部柔軟性(weight bearing lunge test:WBLT),当院階段(蹴上18cm,踏面奥行23cm,8段)を安全な範囲で実施可能な最速昇段時間(stair ascent time:SAT),最速降段時間(stair descent time:SDT),階段昇降時痛(5段階リッカートスケール,1:痛みなし,5:とても痛い),階段昇降方法(一足一段step over step:SO,二足一段step by step:SB),手すりや杖使用の有無とした。膝筋力はハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTAS-F1)を用いて膝関節屈曲90°座位で測定し,体重と下腿長から体重比筋トルク(Nm/kg)を算出した。WBLTは上肢支持を許した一歩前進位から,踵が床面から離れない範囲でのランジ動作にて測定課題とした。膝を壁面に接触させられる範囲で,足部を壁面から離していった時の足趾先端と壁面との最大距離を1mm単位で測定した。なお,WBLTは先行研究により高い再現性(ICC=0.99),下腿前傾角度との相関(r=0.95)が報告されている(Bennel,1998)。統計解析について,昇降時間(SAT,SDT)と各項目との関連にはSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また,SAT,SDTを従属変数として,関連の認められた項目を独立変数としたステップワイズ法による階層的重回帰分析を行った。統計解析にはSPSS ver.22を用いて,有意水準は5%とした。【結果】48名(男性9名,女性39名,TKA32名,UKA16名)が対象となり,対象者の基本属性は平均年齢70.9±標準偏差7.1歳,BMI25.7±3.4kg/m2,術後経過期間2.8か月(範囲:2-6か月)であった。SAT,SDTともに年齢(SAT:r=0.55,SDT:r=0.33),術側膝ROM(r=-0.49,r=-0.45),術側膝筋力(r=-0.32,r=-0.39),健側膝筋力(r=-0.32,r=-0.36),術側WBLT(r=-0.50,r=-0.45),健側WBLT(r=-0.50,r=-0.55),動作時痛(r=0.40,r=0.39)において中等度の相関が認められた(P<.05)。重回帰分析の結果,SATの関連要因として年齢,術側膝ROM,昇段時痛,術側WBLTが抽出された(調整済みR2=0.64)。また,SDTの関連要因として降段方法,年齢,降段時痛,術側WBLTが抽出された(調整済みR2=0.56)。【考察】先行研究(Gustavo JA,2010)同様に階段昇降時間と年齢,膝ROM,膝筋力に相関が認められた。また,SAT,SDTともにWBLTが関連要因として抽出され,階段昇降速度と荷重位足部柔軟性の関連が示された。これは,WBLTが荷重位での下腿前傾(ランジ)動作を課題としており,階段昇降動作に類似していたためと考えられる。SATで膝ROMが抽出されたのは,昇段では降段よりも膝の可動域が必要とされる(Proropapadaki,2007)ためと考えられる。また,降段速度と足部底屈モーメントの関連を示す報告もあり(Tyler,2011),SDTに影響する身体的要因としてWBLTのみが抽出されたと考える。本結果より,KJR後患者の階段昇降速度改善に対して,膝関節機能だけでなく荷重位での足部柔軟性に対するアプローチの必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,KJR後患者の階段昇降時間における足部機能の関連を示唆しており,KJR後の理学療法において,WBLT評価の有用性を示唆し,介入方法再検討の際に有意義な結果であると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2014 (0), 1420-, 2015
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680551180416
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- NII論文ID
- 130005416344
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可