急性期脳卒中患者に対するリハビリテーション実施単位数が日常生活活動の改善に与える影響
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【はじめに,目的】近年,診療報酬改定により回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟では患者1人に対して1日のリハ実施単位数の上限が6単位から9単位に変更され,充実加算,休日加算が設けられた。回復期リハ病棟では,療法士の増加配置が積極的に行われるようになり,患者1人に対して1日のリハ実施単位数の増加が日常生活活動(以下,ADL)の改善に有効であると報告されている。一方,急性期病棟においては,リハ実施単位数とADL改善に関する報告は少なく,十分なリハ実施単位数の提供がなされているところは少ないのが現状と思われる。今回我々は,急性期脳卒中患者に対してリハ実施単位数がADLの改善に影響するのかを検討し知見を得たので報告する。【方法】対象は2009年10月~2012年3月の間に当院脳神経外科・神経内科に入院し,リハ処方がなされた初発の脳梗塞・脳出血患者で発症2~6週まで継続して評価を行なえた22名とした。性別は男性9名,女性13名,平均年齢66.0±8.8歳であった。病型は脳梗塞14名,脳出血8名であった。除外基準は,①発症2週のFIMの運動項目(以下,運動FIM)が70点以上,②病巣が小脳・脳幹のもの,③重篤な合併症や併存症があり,④整形外科的疾患により著しい疼痛がある者,⑤治療期間中に再発や麻痺の増悪があり,⑥その他著しい認知機能の低下や遅延する意識障害を有する者とした。診療録より基礎情報,ADLの経時的変化として発症2・4・6週の運動FIMスコアを抽出した。次に2~4週・4~6週・2~6週(以下,3期間)における運動FIMスコアの差(以下FIM利得),1日平均リハ実施単位数(実施単位数/実施日数),FIM効率(FIM利得/実施日数)を算出した。その後,3期間のFIM利得の各平均点で,その平均点よりも高いものを高改善群,低いものを低改善群の2群に分け,1日平均リハ実施単位数の差を検討し,さらに3期間のFIM利得とリハ実施単位数の相関を分析した。統計処理は発症2・4・6週の運動FIMスコアをFriedman検定した後,多重比較検定を行った。またMann-WhitneyのU検定で,3期間における高改善群と低改善群の1日平均リハ実施単位数を比較し,さらにFIM利得と1日平均リハ実施単位数をスピアマンの順位相関を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】診療録から得た対象者の個人情報は厳重に管理し,対象者または家族には入院時に本研究の趣旨を説明し同意を得た。【結果】22名の運動FIMスコアの平均点は,発症から2週時32.5±19.9,4週時42.5±22.9,6週時50.1±22.9であり,2~6週にかけて運動FIMスコアは有意に高かった。3期間のFIM利得について,2~4週は10.1±13.2点,4~6週は7.6±7.1点,2~6週は17.6±13.7点であり,2~4週と4~6週で2群のFIM利得には有意な変化はなかった。1日平均リハ実施単位数とFIM効率は,2~4週で3.18±0.69と1.09±1.43,4~6週で3.54±1.09と0.77±0.69,2~6週で3.36±0.80と0.92±0.71であった。高改善群と低改善群で比較すると,2~4週の1日平均リハ実施単位数は高改善群で3.52±0.63,低改善群で2.98±0.64,2~6週の1日平均リハ実施単位数は高改善群で3.81±0.78,低改善群で2.98±0.58であり有意に多かった(p<0.05)。各期間におけるFIM利得と1日平均リハ実施単位数の間に,2~4週と2~6週で有意な相関を認めた(r=0.4,p<0.05)が,4~6週において相関は認められなかった。【考察】近年,急性期病棟では在院日数の短縮が図られ,より効果的なリハが求められている。本研究ではリハ実施単位数の増加が急性期脳卒中患者においてもADL改善に影響するか検討した。その結果,1日の平均リハ実施単位数が1単位(20分)未満の増加においてADL改善に効果を認め,さらに1日の平均リハ実施単位数とADL改善に有意な正の相関を認めたことより,リハ実施単位数の増加はADL改善に影響を与えることが明らかとなった。しかし,1日のリハ実施単位数とADL改善の相関係数はやや低かったため,ADL改善には年齢など他の因子の影響もあると考えられる。1日のリハ実施単位数とADL改善には,発症2~4週で相関を認めたことから,発症早期に重点的に治療時間を増やして,リハを実施することがADL改善により有効と考えられる。今後は症例数を増やし,より詳細な分析を行い,退院時転機などの調査につなげることが必要であろう。【理学療法学研究としての意義】今回の報告では急性期脳卒中患者において,発症2~4週の比較的早期から重点的にリハを実施することで,運動FIMスコアを大きく改善させる可能性があり,より早期に自宅復帰率の向上や回復期リハ病棟への転棟につながる可能性がある。在院日数の短縮が図られる中,急性期病棟においては,より手厚い療法士配置の根拠資料の1つとして役立てられる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2013 (0), 0037-, 2014
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680551243648
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- NII論文ID
- 130005246094
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可