子育て世代の理学療法士における生涯学習に関する意識調査
説明
【はじめに、目的】理学療法士(以下、PT)は10万人を超え、また日本理学療法士協会(以下、協会)の組織率は約80%と他職種の中でも高い。協会会員の平均年齢は32.6歳で43.0%が女性である。PTママの会(以下、本会)では託児付の勉強会を年2回開催している。参加者からは生涯学習の必要性は感じながらも実践の難しさについて多く聞かれる。そこで、我々は生涯学習に対する意識と現状について聴取し、子育て世代における生涯学習について考察した。【方法】調査1:本会勉強会(全8回、2008~12年)の参加者に対し、生涯学習に関する調査を実施した。調査2:本会会員(2012年9月)に対し、生涯学習に関する調査をE-mailおよびWEBアンケートを用い実施した。調査1、調査2とも就労状況、卒後の生涯学習について聴取した。回答は無記名で、選択回答法、自由回答法を合わせて実施した。【倫理的配慮、説明と同意】両調査とも回答は無記名で、E-mailの回答は回答用紙のみを解析に利用し、個人が特定されないよう考慮した。対象者全員に調査の目的、趣旨および個人情報保護について説明し、同意を得た。【結果】調査1:全8回の調査においてのべ156名より回答を得た。年齢層は30歳代(82名)、経験年数は6-10年目(59名)が多数を占めた。既婚者が123名(78.8%)、134名(85.8%)に子どもがいた。過去1年間の講習会参加頻度については「数ヶ月に1回」が70名で最も多く、「1年に1回」、「ほとんど行っていない」が続いた。参加できない理由は「参加費が高い」、「子どもを預けてまで参加できない」「子どもの預け先がない」があがった。また第6~8回勉強会で研修会、託児の費用について聴取した。研修会参加可能な参加費は67.3%が1001~5000円と回答した。託児については、76.0%が1日1500円までなら利用可能と回答した。調査2:回答は34名より得たが、全ての設問に回答した18名を対象とした。年齢層は30歳代が多く、経験年数は11.8年で、転職回数は2.1回であった。18名全員が既婚であり、17名に子どもがいた。子どもの数は1.66名だった。就労については、17名が就労中で、うち12名が常勤であった。協会には17名が所属し、協会からの情報取得は「郵送物」が13名と最も多かった。協会での卒後研修へは18名全員に参加経験があるが、認定PT・専門PTの取得は2名にとどまった。未取得の理由には「資格取得要件を満たしていない」、「講習会に参加できない」などがあげられた。卒後の生涯学習の必要性については17名が必要と考え、その理由として、「対象者のサービス向上のため」、「自己研鑽のため」、「職種の社会的地位向上のため」と回答していた。生涯学習の受講頻度は13名が過去5年間に比して減少しており、2~3年に1回以上が8名、1年に1回以上が4名と示された。受講機会の減少理由は「時間が取れない」、「子どもの預け先が確保できない」などがあげられた。また卒後の生涯学習が受講しやすくなる要因として、「研修の受講や資格取得で仕事に利点があること」、「開催場所のアクセスのよさ」、「託児室の併設」などがあげられた。関心あるテーマとして治療手技、研究(症例検討等)などがあげられた。【考察】両調査の結果から、平均的な年齢層で、かつ子育て中のPTの多くが生涯学習の参加経験をもち、必要性を感じながらも「時間の捻出」、「子どもの預け先」や「参加費の捻出」が生涯学習継続の制限となっていた。この結果には仕事と家庭の両立に育児が加わることで、時間や経済面など物理的な制限が増えることが表れている。先行研究において就業継続には制度の周知や職場環境の整備等の必要であることを報告したが、生涯学習は個人差が実現を左右することが示唆された。厚労省の報告では第1子出産前後の女性継続就業率は26.7%で1980年代と変化はない。それと比較するとPTの就業率は高いと考えられる。安達(2011)は産婦人科医の継続就労支援について「子育て女性医師だけでなく、全ての医療関係者の勤務環境を見直し、整えることが大切」と報告しており、支援策として1)柔軟な勤務形態、2)周囲との公平性、3)モチベーションの維持をあげている。PTの生涯学習も同様に「時間の捻出」「託児の確保」「費用の負担軽減」を男女とも全てのPTを対象に考えることができれば生涯学習の継続しやすくなると考える。【理学療法学研究としての意義】PTの生涯学習の継続の実現は質の高い理学療法を提供することにつながり、就業継続や質の向上について貢献できると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100962-48100962, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680551261056
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- NII論文ID
- 130004585337
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可