着地動作における足関節のエネルギー吸収の割合  -高さの違いによる影響-

DOI
  • 齋藤 悠城
    札幌医科大学 大学院 保健医療学研究科 青森県立保健大学 健康科学部 理学療法学科
  • 内山 英一
    札幌医科大学 保健医療学部 理学療法学科
  • 佐藤 秀一
    青森県立保健大学 健康科学部 理学療法学科

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抄録

【はじめに、目的】下肢関節損傷の中で高頻度に認められる足関節捻挫は、日常生活動作(Activities of Daily Living, ADL)において最も損傷を受けやすく、特に、不整地での歩行や走行の着地時に受傷する。また、足関節はADL上の繰り返し負荷によって起こるオーバーユース障害(足底腱膜炎やアキレス腱炎など)を生じやすい。そのため、ADL上において足関節に加わる負荷は膝関節・股関節よりも大きいと推測されるが、その詳細は明らかでない。本研究の目的は、異なる高さからの着地時に受ける足関節のエネルギー量と膝・股関節のエネルギー量を比較することで、足関節のエネルギー吸収の割合を求め、足関節への負担を明らかにすることである。【方法】健常成人男性16 名を対象とした。年齢は21.1 歳(18-23 歳)、身長172.4cm(166-178cm)、体重62.6kg(52-74kg)であった。被験者は20cm, 40cm, 60cmの台から飛び降り、両脚着地を行った。飛び降りの際、できるだけ台の端に立ち、前方、上方に飛ばないように指示した。動作中の身体の空間座標の計測には、モーションキャプチャーカメラ(Vicon512, Oxford Metrics, UK)7 台と床反力計(Advanced Mechanical Technology Inc.,USA)2 枚をサンプリング周波数60Hzで同期させた3 次元動作解析装置システムを用いた。臨床歩行分析研究会が推奨するマーカーの貼付方法を採用して、直径25mmの赤外線マーカーを肩峰部、股関節部、膝関節部、足関節部、第5 中足骨部の左右10 か所に貼付し、身体を7 リンク剛体モデルに定義した。着地の瞬間から重心が最下点に達するまでの運動学、運動力学的データを計測した。今回指標とするエネルギー量は関節モーメントに関節運動の角速度を乗じてそのパワーを計算し、さらにその値を時間積分することによって得られた。統計処理にはエネルギー量およびエネルギー量の割合においてそれぞれTwo-way Repeated-Mesears ANOVAを行いpost-hocとしてTukey's multiple comparison testを行った。有意水準はα=0.05 と設定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は学内研究倫理委員会の承認を受けたのち、事前に研究の内容を被験者に十分に説明し、書面で同意を得た。【結果】各関節におけるエネルギー量(Joule, J)を体重で正規化した。足関節は20cmからの着地で1.1 ± 0.3J、40cmで1.6 ± 0.4J、60cmで1.8 ± 0.5Jと、20cmと60cmの間で有意差を認めた(p=0.001)。膝関節は20cmからの着地で0.7 ± 0.5J、40cmで1.8 ± 0.7J、60cmで2.7 ± 0.6Jと、20cmと60cmの間で有意差を認めた(p<0.001)。股関節は20cmで0.06 ± 0.05J、40cmで0.3 ± 0.2J、60cmで0.6 ± 0.5Jと有意差を認めなかった。各関節におけるエネルギー量の割合は、20cmからの着地で、足関節は60.7%、膝関節は36.4%と足関節が有意に高かった(p<0.0001)。40cmでは足関節は44.5%、膝関節は47.5%であり、足関節と膝関節の間に有意差を認めなかった(p=0.99)。60cmでは足関節は36.0%、膝関節は53.5%であり、膝関節が有意に高かった(p=0.02)。股関節は20cm、40cm、60cmでそれぞれ2.9%、6.0%、10.5%と他の関節に比して有意に低い割合を示した(p<0.0001)。【考察】足関節は低い高さからの着地時に、近位関節である膝関節、股関節よりも大きなエネルギー吸収の役割を果たした。一方でより高い位置からの着地では、近位関節へ加わる負荷が増大する。これらのことから、より低い位置からの着地、例えば降段や歩行、ジョギングなどのADL活動によって、足関節は膝関節、股関節よりも大きな繰り返し負荷を受けている可能性が示唆された。ADL上の活動で頻発する足関節捻挫やオーバーユース障害の予防には、膝関節、股関節によるエネルギー吸収の割合を増加させることが有効かもしれない。【理学療法学研究としての意義】下肢損傷に対する理学療法では、関節への負荷量のコントロールが必要となる。本研究の結果から、特に足関節・足部の損傷に対して着地練習を実施する時は、低い高さからの着地であっても足関節に対する負担が大きいことを留意しなければならない。また、足関節とは異なり、膝関節に対する負荷量は飛び降りの位置が高くなるにつれて増加する。このことは、例えば前十字靭帯損傷の術後の患者に対する着地練習など、膝関節に対する負荷量をコントロールするための基礎的情報として理学療法に寄与するかもしれない。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101075-48101075, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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