全国理学療法士養成校における実習前後の介入方法

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  • 熊野 貴紀
    学校法人原学園 専門学校白寿医療学院 理学療法学科 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 保健医療学専攻
  • 谷 浩明
    国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 保健医療学専攻

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抄録

【はじめに,目的】理学療法士作業療法士養成施設指定規則によると1966年の制定時,臨床実習時間数は総時間数の51%(1683時間以上)を占めていたが,その後数回の改訂を経て1999年の改定時には総時間数の19.4%(810時間以上)と減少している。これは臨床技能レベルの向上を目的とした客観的臨床技能試験(OSCE)や問題基盤型学習(PBL)の実施により臨床実習で得るべき知識・技術の補完が学内教育においても可能であるとの考えが根底にあるものと推測される。しかし,臨床実習には,臨床技能の獲得だけではなく,資質の醸成やチーム医療内での役割の自覚といった側面も含まれるので,いまだ理学療法士の教育における位置づけは重い。現在,わが国における理学療法士養成校の形態は,4年制大学・4年制専門学校・3年制短期大学・3年制専門学校と多岐に渡る。こうした就学年数や教養科目と専門科目の占める割合の違いのうえに,臨床実習では実習施設数や地域偏在性が加わるため,各学校の違いがより顕著に表れることが考えられる。そこで,今回,全国の理学療法士養成校にアンケートを実施し,授業カリキュラム以外の臨床実習に特化した介入方法の実態を調査したので報告する。【方法】日本理学療法士協会ホームページの養成校一覧(H24.7.20現在)のうち,募集停止を除く241校を対象とした。内訳は4年制大学90校,4年制専門学校68校,3年制短期大学5校,3年制専門学校78校を対象とした。2013年9月上旬にアンケートを送付し,9/30を締め切りとして回収・集計した。アンケート項目は,学校種別,学科学生数と教員数,各学年別臨床実習期間,実習前の具体的介入,実習後の具体的介入,学校提出課題,実習日誌の使用状況とした。【倫理的配慮,説明と同意】今研究計画は,所属機関の倫理審査委員会にて承認されている(承認番号13-Io-104)。また,書面で研究の要旨を説明し,返送されたデータのみを使用した。【結果】全送付数241のうち,所在不明による返却が1校,回答なしが145校,1校がデータの使用が困難となり94校の回答を分析対象とした。回収率は,39.0%で学校種別による偏りも少ないものであった。データの学校種別割合は,4年制大学:40.4%,4年制専門学校:28.7%,3年制短期大学:2.1%,3年制専門学校:28.7%であった。回答結果より,実習前に座学形式で54.3%,グループワークで50.0%,実技形式で55.3%と半数以上の学校で何らかの介入が行われていることがわかった。学校種別では,座学形式の実習前介入は,3年制専門学校で59.2%,4年制専門学校で63.0%と比較的多く実施されているが,4年制大学では48.6%,3年制短期大学に至ってはまったく実施されていなかった。実技形式による介入についても,3年制専門学校54.3%,4年制専門学校66.7%,3年制短期大学50.0%,4年制大学46.0%とほぼ同様あった。これに対してグループワークでの介入は,3年制専門学校で48.1%,4年制専門学校で37.0%と少なかったが,4年制大学では62.2%と比較的多く実施されていた。実習後の介入では95.7%の学校が症例発表会を実施していた。その他の介入も含めた学校種別の違いはみられなかった。その他の介入は,全体で37.2%の学校が実施しており具体的方法は,個人面談や個別指導が最も多く,担当症例以外の自由研究や治療などの実技発表会,実習全体を通した振り返りやインシデントなどの発表会といったものがそれに続いた。【考察】今回の調査で,学校種別によって様々な実習形態があることがわかった。実習前の介入では,学校種別による違いも若干みられ,専門学校は教員主導の学習形態を,大学では学生の自主性を尊重した学習形態を選択していることが考えられた。また実技形式での介入割合が専門学校で多いのは,より実践的能力に主眼をおいているからではないかと考えられた。その他の実習前介入として,共用試験の使用による知識・技術の判定や関連施設でのプレ実習や実習指導者・卒業生などによる第三者的介入例が見られ,各学校で臨床実習に向けた補完が多様である現状が確認された。また,実習後の介入ではほとんどの学校が症例発表会を実施しているが,その他の介入は約1/3に留まり,その具体的方法は,個人面談や試験を除外すると,実習経験の学内教育における活用は17校(18.1%)に過ぎず,貴重な実習経験を十分に活かしきれていないことがわかった。【理学療法学研究としての意義】今回の調査結果から,臨床実習による経験を学内教育で十分に活かしきれていない可能性が示唆された。この実習経験の有効な活用方法を検討することは,学生のさらなる能力向上につながると考えている。

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