壮・老年期のトレッドミル運動介入が老化に与える影響について

DOI

抄録

【はじめに、目的】本格的な高齢化社会に向けて、「予防医学」すなわち病気を未然に防ぐためや、病気にかからないための身体作りに対しての研究が盛んになってきている。その中でも、中高年以降の継続したウォーキングやジョギング習慣は、身近かつ簡単にできる運動として注目されている。しかし、一方では過負荷などによる運動器系・循環器系への負の影響も報告されている。老化が注目され、老化現象は検討されているが、運動介入による老化への影響を調べた研究は、まだまだ少なく、見解としても定まっていないのが現状である。そこで今回、正常マウスに比べ、老化の進行が速く、平均寿命が約40%低下している老化促進マウス(senescence-accelerated mouse:SAM)を使用し、8 週間トレッドミル運動を行い、壮・老年期の運動が身体にどのような影響を与えるのか検討した。【方法】実験動物として、雄のSAMP1 を計40 匹使用した。先行研究より、老化に関連した骨格筋変化が起こる50 週齢を老化が起こり始める基準とし、50週齢からトレッドミル走行を行った。1日1回のトレッドミル運動を実施する低頻度運動(LRP)群、1 日2 回(疲労等の影響を考慮し、1 回目の運動から最低6 時間以上間隔をあけ2 回目の運動を実施した)トレッドミル運動を実施する高頻度運動(HRP)群に無作為に動物を分け、トレッドミル運動は、13m/min、20 分間を週6 回、連続8 週間行った。50 週齢群、58 週齢群、HRP群、LRP群(各10 匹)の1 時間の活動量、体重、心重量を計測し、下大静脈より採血した。採血した血液は遠心分離器で血清を採取し、加齢による変化また運動による影響を調べた。血清は、生体致死因子であるHMGB1(high mobility group box-1)、腫瘍壊死因子(TNF:Tumor Necrosis Factor-α)、インターロイキン (IL:Interleukin)-1 β、−6、−10 を酵素免疫測定法(ELISA法)により測定した。心重量は、体重で除した値(体重比)を算出した。統計学的検定には一元配置分散分析を用い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】各群の1 時間のマウスの活動量は、58 週齢群で他群と比較し、有意に活動量低下がみられた。体重は、各群に有意差はみられず、平均して約32.5g〜33.6gであった。心重量(体重比)では、各群有意差はみられなかったが、58 週齢群が一番軽く(65.3 ± 8.8mg/body weight)、HRP群が一番重い値(70.5 ± 9.7 mg/body weight)だった。また、ELISA法による各群の血中各因子濃度は、TNF-α、IL-6、IL-10 では有意差はみられなかったが、IL-1 β濃度では58 週齢群で一番低く(34.4 ± 12.6pg/ml)、LRP群(51.1 ± 9.4 pg/ml)・HRP群(54.9 ± 5.6 pg/ml)に比べ、有意に減少していた。また、HMGB1 濃度は、58 週齢群(8.0 ± 1.9ng/ml)で、LRP群(4.8 ± 1.4ng/ml)・HRP群(4.5 ± 1.9ng/ml)に比べ、有意に高い値を示した。【考察】今回の結果より、老化により活動量の低下や心重量低下がみられるが、動物における老化初期より一定の運動介入を行うことで、その減少を抑制できる可能性が示唆された。血中IL-1 β濃度は高濃度になると炎症性サイトカインを誘発し細胞死を招く可能性があるが、低量であると血管透過性や抗原抗体反応を促進する働きを持っており、今回の濃度は約34 〜54 pg/mlと低量であり、運動介入により生体にとって有益な効果があった可能性が示唆された。また、炎症性サイトカインとして炎症や臓器障害を惹起することが判明しているHMGB1 濃度がLRP群・HRP群共に血中で58 週齢群と比較し有意に低い値を示したことは、運動により細胞死を抑制できる可能性が示唆される。このことは、高齢者の定期的な運動介入は、老化促進を予防できる可能性を秘めている。【理学療法学研究としての意義】近年、介護予防・予防医学の分野に理学療法士が介入する事例が多くなってきている。ヒトの研究では、壮・高齢者は様々な疾患を有しており、コントロールスタディ確立が困難である。今回の研究では、確立した老化モデルマウスを使用し、老化による活動量の低下や心重量の減少、また血中のサイトカイン等の影響を検討できたこと、また、壮・高齢期から定期的な運動介入を行うことによって老化による上記の低下を抑制できる可能性が示唆されたことは、理学療法士が壮・高齢者の運動療法介入効果について、さまざまな方面から検討する上で重要な情報であり、理学療法のエビデンス確立につながると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101107-48101107, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551299456
  • NII論文ID
    130004585434
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101107.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ