座位姿勢の骨盤前後傾では後傾位の方が筋緊張が高い 組織硬度計による検討
説明
【はじめに、目的】我々は動作分析する前段階において静止時姿勢を観察する。姿勢変化で生じるアライメント変化の関連性が身体連動パターンで起こるため、静止時姿勢は重要な評価項目となる。臨床現場において静止時姿勢である座位姿勢において過度な骨盤前傾位または後傾位を呈する患者をよく経験する。座位での骨盤変位は立ち上がり動作のような前方への重心移動をともなう動作に影響を与えるために、骨盤変位の改善は運動療法の目的のひとつとなる事が多い。骨盤後傾の原因として、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、ハムストリングス、背筋などの筋緊張異常が考えられ、その中でも今回は背筋に着目した。背筋は最長筋、腸肋筋、多裂筋で構成されているが、理学療法の臨床において同じ作用を持つ3 筋のなかで筋緊張に差異を認める症例を経験した。今回本研究では、最長筋、腸肋筋、多裂筋の筋硬度が骨盤前後傾にどのように影響しているのかを健常者を対象として、組織硬度計を用いて検討した。【方法】対象は本研究に同意を得た健常男性14 名(平均年齢21.2 ± 5.8 歳)とした。座位で骨盤最大前傾・最大後傾姿勢をとり左右の最長筋、腸肋筋、多裂筋をVinkらによる表面筋電図を測定する部位で組織硬度計(伊藤超短波株式会社)を用いて硬度を測定した。各々の姿位での硬度のデータをKolomogorov-Smirnov検定とShapiro-Wilk検定を用い検定したが正規性を認めなった。そのため、今回は各筋の骨盤前傾位と骨盤後傾位での筋硬度の比較をWilcoxon符号付順位検定により検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は関西医療大学倫理委員会の承認を受けており、対象者には本研究の目的・方法を説明し同意を得た。【結果】骨盤前傾位での組織硬度は右最長筋35.46 ± 7.98、左最長筋36.61 ± 11.39、右腸肋筋21.71 ± 3.17、左腸肋筋23.61 ± 3.95、右多裂筋32.54 ± 6.11、左多裂筋31.34 ± 6.10 であった。骨盤後傾位での組織硬度は右最長筋46.29 ± 8.54、左最長筋47.8 ± 8.01、右腸肋筋34.69 ± 6.77、左腸肋筋36.00 ± 8.07、右多裂筋42.68 ± 8.37、左多裂筋46.34 ± 8.60 であった。左右ともに最長筋、腸肋筋、多裂筋は骨盤後傾位で前傾位と比較して、組織硬度の亢進を認めた(p<0.05)。【考察】今回、臨床上よくみられる姿勢パターンである座位での骨盤前後傾位で組織硬度計を用いて最長筋、腸肋筋、多裂筋の硬度を測定した。左右最長筋、腸肋筋、多裂筋は骨盤後傾位で前傾位よりも高い硬度となった。一般的には骨盤前傾位では腰背筋の筋緊張は増加し、後傾位であれば腰背筋の筋緊張の増加は必要ないと言われている。今回の我々の研究では後傾位で最長筋、腸肋筋、多裂筋の組織硬度は前傾位と比較して増加した。筋電図を用いた報告と今回の報告と比較すると、臨床で行っている筋緊張検査は筋の緊張だけではなく、軟部組織、皮膚の硬さを含めて評価され、決して筋緊張の活動だけを反映しているのではない可能性が示唆された。具体的には、後傾位で前傾位と比較として組織硬度が亢進しているのは背筋が伸張位で姿勢保持を行なっており、軟部組織、靭帯なども影響していると考えられる。今回は組織硬度計を用いた単独の研究であるために、将来的には筋電図と組織硬度計を用いて検討したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】今回の研究により、最長筋、腸肋筋、多裂筋は骨盤後傾位で前傾位と比較して、組織硬度の亢進を認めた。筋緊張検査では筋緊張の活動を反映しているとは限らず、臨床で筋緊張検査を行う際は筋の硬さ、柔らかさだけで筋活動の有無を判断してはならないことが本研究で示唆された。
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2012 (0), 48101031-48101031, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680551332352
-
- NII論文ID
- 130004585381
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可