頭頸部屈伸筋力比および頸部屈曲筋持久力とバランス能力との関連

DOI

抄録

【はじめに、目的】頭部を支える頸部筋は固有受容器が豊富にあり,身体の姿勢制御,眼球運動制御に重要な感覚情報を提供している.頸部筋の筋紡錘は,1gあたりの数および筋の直列配列が僧帽筋や下肢筋などと比較して非常に多い.また,頸部筋への振動刺激は,立位姿勢を5.5 〜6.5 度前方へ傾斜させることから,姿勢制御において頸部の感覚入力が重要であると報告されている.頭頸部と姿勢制御の関係について,頭部を前方変位時および頸部筋の筋疲労時に姿勢動揺が増加すると報告されている.頭頸部屈曲および伸展深層筋により頸部を中間位に保持することは,頸部筋の固有受容器からの適切な感覚情報により,姿勢制御を行う上で重要である.しかし,健常成人を対象とした頭頸部屈曲および伸展の筋力比,頸部屈曲筋持久力,重心動揺の関連についての報告は少ない.本研究では,健常成人を対象に頭頸部屈伸筋力比および頸部屈曲筋持久力とバランス能力との関連を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常若年者21 名(男性10 名,女性11 名),平均年齢20.7 ± 1.2 歳であった.バランス能力は重心動揺計twingravicoder6100(ANIMA)を用いて測定した.重心動揺の測定は,閉脚立位で開眼および閉眼を各60 秒間行った.頭頸部屈曲および伸展筋力は,徒手筋力計μ-tas F1(ANIMA)を用いて測定した.測定の条件は,耳孔と肩峰を同じ高さとして,頭頸部屈曲筋力では背臥位で下顎の下に,伸展筋力では腹臥位で外後頭隆起に歪みセンサーを固定した.測定方法は,各肢位にて5 秒間の等尺性収縮による最大筋力を3 回測定し,平均値を代表値とした.頭頸部屈曲伸展比(以下,F/E)は,頭頸部伸展筋力/屈曲筋力にて算出した.頭部屈曲筋持久力は,両側の胸鎖乳突筋筋腹中央よりやや近位部に電極を接地し,表面筋電図Bagnoli-8(Delsys)を用いて測定した.測定方法は,頭部支持部が稼働するベッドの上で対象者を背臥位とし,ベッドの頭部の支えを除いた後,できるだけ長い時間頸部を中間位に保持させ,表面筋電図を測定した.得られたデータを周波数解析し,1 分間当たりの中央パワー周波数の低下率(以下,dMDF)を算出した.統計解析は,Dr SPSS 11.0J for Windows(SPSS Inc.)を使用して,各測定結果の関係についてSpearman順位相関分析を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容について説明して同意を得てから調査を行った.【結果】F/Eは,外周面積(r=−0.47,p<0.05)および矩形面積(r=−0.64,p<0.01)のロンベルグ率と有意な負の相関があり,開眼(r=−0.50,p<0.05)および閉眼(r=−0.48,p<0.05)におけるY方向動揺平均中心変位と有意な負の相関があった.dMDFは,総軌跡長のロンベルグ率と有意な正の相関があった(r=0.49,p<0.05).【考察】本研究の結果,F/Eは外周面積および矩形面積のロンベルク率,開眼,閉眼時のY方向動揺平均中心変位と負の相関があった.筋紡錘の密度が高い頭頸部伸展筋の筋力は,屈曲筋力に対して大きくなるほど,頭部を保持,制動する能力が高く,視覚情報を制限することが重心動揺の面積に与える影響が少なかった可能性がある.また,頭頸部伸展筋への振動刺激は,重心動揺を増加させ,動揺中心が前方に変位したと報告されており,頭頸部伸展筋が姿勢制御において重要であることが示唆されている.本研究においても,頭頸部伸展筋力は屈曲筋力に対して大きいほど,姿勢制御能力が高く,視覚情報の有無に関わらず動揺中心が後方となったと考えられる.dMDFは,総軌跡長のロンベルグ率と有意な正の相関があった.先行研究と同様に,dMDFは,大きくなるほど頸部屈曲筋持久力が低下していることを示唆する.頸部疾患患者は,健常者と比較して,重心動揺が大きいと報告されているが,健常者では,頸部屈曲筋持久力が高いほど重心動揺の距離が短く,姿勢制御が安定している可能性がある.本研究の結果,F/Eは,外周面積および矩形面積のロンベルグ率と有意な負の相関があり,dMDFは,総軌跡長のロンベルグ率と有意な正の相関があったことから,F/Eおよび頸部屈曲筋持久力は,バランス能力と関連し,姿勢制御に影響を及ぼしている可能性がある.【理学療法学研究としての意義】健常成人を対象に,F/Eおよび頸部屈曲筋持久力とバランス能力を調査することは,頸部筋力と姿勢制御の関係を明らかにする上で重要である.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101453-48101453, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551383296
  • NII論文ID
    130004585689
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101453.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ