急性硬膜下血腫併発後に対麻痺を呈した血友病患者の一症例

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抄録

【はじめに】先天性血友病A患者に対して第VIII因子製剤を反復輸注した結果,同種抗体(以下,インヒビター)が発生することがある.一旦,インヒビターが出現すると通常の凝固因子製剤の止血効果は著しく低下し,急性出血や手術時の治療としてバイパス療法・中和療法の選択がある.脊髄クモ膜嚢胞は比較的稀な疾患であり,硬膜内のものは脊髄疾患の1%にすぎず,国内外において硬膜内脊髄クモ膜嚢胞の理学療法臨床的検討を行っている報告は少ない.今回,第VIII因子インヒビター陽性先天性血友病(以下,血友病A)を罹患しておりバイパス療法中に急性硬膜下血腫を発症したが,その背景に脊髄クモ膜嚢胞・癒着性クモ膜炎・脊髄空洞症を併発していたことで対麻痺を呈した症例を経験した.後療法を検討する際,超急性期では把握しきれない病態や,続発する症状の存在を確認する習慣,それらに対して迅速に対応することの重要性を再認識したので報告する.【症例】31歳男性.背景:出生時より血友病A.H23年5月脊髄クモ膜嚢胞に対して第3-10胸椎脊髄硬膜内髄外腫瘍摘出術施行.H24年1月癒着性脊髄クモ膜炎に対して第6頸椎-第7胸椎椎弓形成術施行.手術後,外出時は杖もしくは普通型車椅子を使用していた.現病歴:H24年6月痙攣を認め救急搬送され,左急性硬膜下血腫の診断で当院救急救命室病棟入院となった.来院時意識レベルJSCI-1・痙攣繰り返していたが血腫5mm程度の厚さで保存加療となった.1病日目,意識レベルが低下し血腫の増大を認めたため,緊急で開頭血腫除去術・外減圧術施行.術後,脳浮腫が強いためバルビツレート療法施行.45病日目に頭蓋形成術を施行した.【説明と同意】主治医より研究内容及び個人情報の保護などに対する配慮を十分に説明の上,発表に関する同意を得た.【結果】15病日目より理学療法開始した.意識レベルJCSI-3,GCS8E4V3M1,血圧160/90mmHg,SpO299%(FMO26L)であった.介入初期では関節可動域練習,呼吸練習,ポジショニングを行い,20病日に意識レベル清明となり再評価を行なった.改良Frankel分類C1, MMT上肢3体幹2下肢1,ROM-Tで左右肘関節伸展-10°,T10以下の表在感覚脱失,位置覚鈍麻,起き上がり・立ち上がり・歩行全て不可,FIM20点であった.下肢の運動および感覚機能が入院前と比して著しく低下しており,急性硬膜下血腫の病態では説明できずMRIから脊髄空洞症の拡大を認めた.基本動作練習を中心にプログラムを立案し23病日より起き上がり軽介助にて可能となり,25病日よりチルトテーブル使用し立位練習を開始した.リスク管理のもと積極的な床上動作練習・立位練習中心のプログラムに移行し,33病日より立ち上がり軽介助にて可能となり,55病日目に頭蓋形成術施行.翌日より理学療法再開し60病日に平行棒内歩行前方腋窩介助にて可能となった.78病日に理学療法継続目的に転院となった.転院時,意識レベル清明,血圧140/90mmHg,SpO2100%(Room Air),改良Frankel分類C2,ROM-T変化なし,MMT上肢4体幹2下肢3,感覚障害著変なし, FIM110点(減点項目:入浴・トイレ動作・歩行・階段)であった.【考察】本症例は急性硬膜下血腫の影響による意識障害が軽快してきたころ,身体機能が入院前よりも大幅に低下していた.介入初期では評価困難であり,意識障害軽快後に理学療法再評価・再立案を早急に行った.先行報告によると脊髄クモ膜嚢胞術後,癒着性クモ膜炎はしばしば脊髄空洞症を合併するとされており,クモ膜嚢胞を治療すると自然に消失するという報告もある.しかし血友病Aのコントロールの問題と,多発性に存在している脊髄クモ膜嚢胞が広範囲の癒着性クモ膜炎を併発しているという問題から手術が困難となっていた.早期よりADL獲得を目指し車椅子・ベッドサイドの環境設定を行い,基本動作を自立させ,ADLを拡大していくことを最優先に考えた.転院時FIMが向上したのは残存筋力と運動持久力が強化され,環境に合わせた運動能力が向上したためだと考えられる.【理学療法学研究としての意義】超急性期における理学療法は続発する症状の把握と,将来の身体機能を予測し考慮して進めていくことが重要である.近年MRIの発展により診断することが容易となり,脊髄クモ膜嚢胞の頻度は今後増えることが予想される.超急性期では把握しきれない病態や続発する症状に対して迅速に対応する際,画像診断を含めた所見をもとに病期に合わせた的確な理学療法を立案・実施していく必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101433-48101433, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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