デジタルビデオ画像を用いた矢状面上の歩行解析における膝関節角度の測定について ゴム製ベルトを利用したマーカー固定における測定精度の検討

DOI
  • 関 裕也
    大里脳神経リハビリテーションクリニック 弘前大学大学院保健学研究科
  • 対馬 栄輝
    弘前大学大学院保健学研究科

抄録

【はじめに、目的】理学療法士は,観察による動作分析を頻繁に行う.その際,衣服を脱いで可能な限り肌を露出することが理想となるが,日常業務の評価・治療において全ての対象者に衣服を脱いでもらうのは現実的でない.もちろん明らかに肢の位置や動きが捉えられない衣服では観察不可能だが,ほとんどの場合は衣服の上からゴム製ベルトを用いてマーカーを固定する方法でも十分なのではないかと考える.そこで,基礎実験として健常成人を対象に,歩行時下肢関節の角度測定を想定して,衣服を着た状態でマーカーをベルト固定した場合と肌を露出した場合の再現性に違いがあるかを検討した.【方法】健常成人10 名(男性8 名,女性2 名,平均年齢26.1 ± 6.5,平均身長166.0 ± 10.2,平均体重69.0 ± 15.9)を被検者とした.歩行時の関節角度の測定には民生用のデジタルビデオカメラ(DVTR)を用いた.3 次元動作解析装置とDVTRでは関節位置の軌跡のパターンと大きさに類似傾向があり,DVTRでも比較的客観的な角度測定は可能である(鈴木ら,2008).また,日常業務への応用を考えればDVTRにおける測定が実際的であると考えたためである.水平な床に三脚に取り付けたDVTR(Panasonic社製HDC-TM60[有効画素数 約211 万× 1])を設置した.DVTRは最大広角とし,レンズ中心の高さは被検者の大転子の高さに設定した.被検者には,以下の2 条件でランドマークとなる部位に直径2.5cmの円形の赤色マーカーを貼付した.まず服なし条件として,マーカー貼付部位の肌を露出した状態で,右下肢の大転子,大腿骨外側上顆,腓骨頭,外果に貼付した.次に服あり条件として,身体に密着していないスラックスなどの衣服を着用した状態で,ゴム製のベルト(大創産業製織ゴム3cm巾A-6)を衣服がずれない程度に軽く巻き,面ファスナー(大創産業製面ファスナーD-3)で留め,その上にマーカーを貼付した.マーカー貼付部位は,右下肢の大転子,大腿骨外側上顆の近位10cmの部位,腓骨頭,外果の近位10cmの部位とした.両条件とも裸足とした.歩行路は,DVTRの撮影画面に対して平行で,約4m離れた位置に設定し,DVTRの撮影画面に収まる約4mとした.助走距離は2m以上とした.歩行の撮影は,被検者に至適歩行速度で歩行するよう指示し,画面左から右方向へ3 回歩行させた.撮影条件の順序は,服なし条件から撮影する被検者を5 名,服あり条件から撮影する被検者を5 名とした.DVTRで撮影した後,動画ファイルとしてパソコンに取り込んだ.測定対象とする相は,精度が確認されている画面範囲に映る時のイニシャルコンタクト(Ic),ローディングレスポンス(Lr),ターミナルスタンス(Ts),イニシャルスイング(Is),遊脚時最大膝屈曲時(SwMf),下腿が床に対して垂直になる瞬間(Sw90)とした.上記の各相を3 歩行周期分選択し,静止画として保存した後,Image J 1.46 (freeware)にて角度測定を行った.1 画像につき3 回測定して平均を求め,さらに3 歩行周期の平均を求め測定角度とした.そして,Ic,Lr,Tsの3 相を立脚相,Is,SwMf,Sw90 の3 相を遊脚相に分類した.統計学的解析は,両条件間における立脚相と遊脚相の測定角度について,対応のあるt検定とPearsonの相関係数検定を行った(p<0.05).【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った.被検者には,研究の主旨を説明し,同意を得た上で測定を行っている.なお,本研究は演者所属機関の倫理審査委員会による承認を得て実施された.【結果】両条件間で対応のあるt検定を行った結果,立脚相でも遊脚相でも有意差は認められなかった.差の95%信頼区間は,立脚相で-2.32 〜0.96,遊脚相で-1.54 〜1.97 であった.Pearsonの相関係数は,立脚相ではr=0.86,遊脚相ではr=0.96 であった.【考察】両条件間における測定角度については,立脚相,遊脚相共に有意差が認められなかった.差の95%信頼区間より,立脚相,遊脚相共に2°前後の差が生じる可能性があるが,測定精度に関して問題ない範囲と言える.Pearsonの相関係数でも立脚相,遊脚相共に高い相関が認められたことから,両条件間での再現性に違いはないと言える.以上より,服あり条件でも,服なし条件と同等の角度測定が可能である.本研究の服あり条件のように身体に密着していないスラックスなどの衣服を着用していても,ゴム製のベルトで固定すれば精度に問題がなかった.ゴム製のベルトによる衣服の固定は,精度の高い角度測定にとって有効な方法である.【理学療法学研究としての意義】本研究では,理学療法士が臨床でDVTRを用いて動作解析する際に,より簡便に精度を保証できる条件を検討した.検討の結果,立脚相,遊脚相共に着衣のままでも客観的な値として活用できることが分かった.よって,本研究はDVTRによる動作解析の可能性を拡げた点で意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101415-48101415, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551435136
  • NII論文ID
    130004585663
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101415.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ