脳卒中後に出現するcontraversive pushingの出現率と回復における半球間差異

DOI
  • 阿部 浩明
    広南病院リハビリテーション科 東北大学大学院医学系研究科肢体不自由学分野
  • 近藤 健男
    東北大学大学院医学系研究科肢体不自由学分野
  • 大内田 裕
    東北大学大学院医学系研究科肢体不自由学分野
  • 鈴鴨 よしみ
    東北大学大学院医学系研究科肢体不自由学分野
  • 藤原 悟
    広南病院リハビリテーション科
  • 出江 紳一
    東北大学大学院医学系研究科肢体不自由学分野 東北大学大学院医工学研究科

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Abstract

【はじめに】脳卒中後に生じるcontraversive pushing (以下、pushing) に関する病態疫学には未だ不明な点が多い。出現率に関する報告は1.5%から60%に至るまで幅広く、また出現における半球間差異があるとする報告も、無いとする報告も散見される。この背景にはpushingの評価時期の相違ならびに評価方法の不統一性が関与していると推察されている(Paci et al. 2009)。 Pushingの代表的評価法であるScale for Contraversive Pushing (以下、SCP)は2000年に開発された。しかし、このSCPを用いたpushingの判定基準は研究者ごとに異なり、出現率が異なる要因となった。その後、pushingの有無の臨床的判断とSCPによる判断との一致度を検証する研究において判定基準が見直され、SCP各下位項目>0とした場合に、測定再現性、構成概念妥当、感度、特異度とも優れることが報告されている(Baccini et al. 2006, 2008, Babyar et al. 2009)。 Pushingの測定時期の差による影響では、pushingは多くの症例で改善するため、早期には出現率が高く、調査時期が遅れるほど出現率が減少するとされる。興味深いことに、急性期に出現率を調査した報告ではpushingの出現に半球間差がないとしたものが多いのに対して、亜急性期以降の報告では出現率における半球間差異が報告されている。このことはpushingにおける回復経過に半球間差異があることを推察させる。 Pushingの出現率ならびに出現に関する半球間差異を明らかにするためには適切な評価指標を用い、出現率が低下しない急性期の脳卒中例を対象として調査する必要がある。また、回復における半球間差異の有無を、早期から継続的に調査することは理学療法介入期間の設定やゴール設定に際し有益な情報を提供することになり得る。 本研究の目的は、脳卒中後に出現するpushingの出現率と、出現率における半球間差異ならびに回復経過における半球間差異を、1000例を超える急性期脳卒中患者を対象として調査し明らかにするである。【方法】2006年6月から平成2009年1月までの31カ月間に脳卒中を発症し入院加療され、リハビリテーション処方された1660名(男性926名、女性734名、年齢69.8±13.1歳)を対象とした。 Pushingの有無はSCP(各下位項目>0)を用いて評価し、pushingの出現率を求め、さらに、画像所見から、病巣をテント上の右あるいは左半球に限局したもの、それ以外の病巣(両側病変、脳幹、小脳病変など)に分類し、テント上右半球損傷例とテント上左半球損傷例の出現率における半球間差異をリスク比にて検討した。 Pushingを呈した症例のうち、回復経過に影響を及ぼす可能性のある要因(介入14日以内のpushing出現確認不能例、14日間以上の経過追跡不能例、中枢神経疾患既往や精神疾患合併例、JCS10以上の意識障害例、理学療法実施困難例)を排除した35例を抽出し、その回復経過をKaplan-Meier法を用いて生存曲線を描き、Log-rank法にて検定した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は広南病院倫理審査委員会にて審議され承認を受け実施した。【結果】Pushingは156例にみられ、出現率は9.4%であった。Pushingを呈した156例のうち、右半球損傷例は97例、左半球損傷例は57例、両側半球損傷例は2例存在した。右半球損傷例における出現率は556例中97例で17.4%、左半球損傷例における出現率は599例中57例で9.5%であり、リスク比は1.83(95%信頼区間、1.35-2.49)で、右半球損傷例に有意に高率に発生していた。  Kaplan-Meier法にて求めた生存曲線はLog-rank法にて有意差 (p=0.027) がみられ、右半球損傷例のpushing消失は左半球損傷例より有意に遅延していた。【考察】出現率はほぼ同じ条件で行われた先行研究(Pedersen et al. 1996)とほぼ一致した。一方で、これまでの疫学研究とは異なり、出現率における半球間差異が明らかとなった。これまで、出現率における半球間差異において統計学的有意差が無いとしたいずれの先行報告においても、右半球損傷例の割合は左半球損傷例のそれより多く、今回の結果は、十分なサンプルサイズにより高い統計学的検出力を得たためと推察された。Kaplan-Meier法を用いた回復経過の調査において、右半球損傷例は左半球損傷例よりpushing消失までの時間が有意に遅延しており、これまでの先行研究における出現率における偏りの要因にpushingの回復経過の半球間差異が関与しているという推察を支持する結果であった。【理学療法学研究としての意義】急性期脳卒中患者におけるpushingの出現率と回復経過には半球間差異が存在し、右半球損傷例では左半球損傷例より出現率が高く、回復が遅延した。Pushingの回復経過に半球間差異があるという事実は、pushingを呈する脳卒中患者の理学療法のゴールや治療期間の設定に際し、半球間差異を考慮すべきことを示唆している。

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