痙直型両麻痺児・失調型脳性麻痺児に対する短下肢装具とゲイトコレクターを用いた歩行時における筋活動の比較
説明
【はじめに、目的】 ゲイトコレクター(以下,GC)は,痙性を伴った脳性麻痺児が使用すると,歩行時における過剰な筋活動が抑制され,足部内反尖足歩行の改善が可能になり,使用後には10度程度の関節可動域(以下,ROM)の改善が認められる装具であることを昨年の本学会において報告した。今回は,歩行周期に焦点を当て,表面筋電図(以下,EMG)を用いた定量的な検討を行った。【方法】 痙直型両麻痺児2名(男児9.0±1.4歳)失調型脳性麻痺児1名(男児8.0歳,いずれもGMFCSレベルⅡ)に対して3通りの5メートル直線歩行を行い,その際の筋活動を計測し,比較した。歩行様式は裸足,SLB装着(以下SLB歩行),GC装着であった。各歩行様式を4回ずつ実施し,階級幅5%で正規化した後,加算平均した。加えて,歩行周期の平均筋活動量を標準偏差と併せて算出した。被検筋は,大殿筋, 大腿直筋, ハムストリング,下腿三頭筋とし,EMGシステムとしてkm-818MT(メディエリアサポート社)を使用した。電極はブルーセンサーN-00S(Ambu社製)を十分な皮膚の前処理の後に貼付した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施された。対象となる患児およびその保護者に対し,本研究への参加は自由意思に基づいていること,いつでも中断できること,これらを含めた本研究への参加の可否により,通常の治療において何ら不利益を受けることはないことを十分説明し,同意を得たのち実施した。【結果】 3例とも裸足歩行では,SLB歩行やGC歩行よりも高い筋活動で歩行していた。またSLB歩行に比べGC歩行では,筋活動の過剰な活動がおさえられ3例中2例が裸足歩行時,SLB歩行時と比較しGC歩行では筋電図の振幅幅が狭まり,筋活動の減少傾向が認められた。SLB歩行とGC歩行との筋電図おける筋活動量の比較を歩行周期に分けて報告する。ケース1・歩行前半:大殿筋23%減 大腿直筋59.3%増 ハムストリング59.3%増 下腿三頭筋60.2%増 歩行後半:大殿筋22.9%減 大腿直筋59.3%増 ハムストリング59.1%増 下腿三頭筋60.2%増 ケース2・歩行前半:大殿筋2%減 大腿直筋16%増 ハムストリング26.4%減 下腿三頭筋増減なし 歩行後半:大殿筋11.9%減 大腿直筋13%増 ハムストリング36.9%減 下腿三頭筋7.0%増 ケース3・歩行前半:大殿筋11.2%減 大腿直筋12%減 ハムストリング8%減 下腿三頭筋50.1%増 歩行後半:大殿筋33.1%減 大腿直筋36.7%減 ハムストリング0.7%増 下腿三頭筋54.1%増【考察】 従来の足関節継手は底背屈を調整するのみだが,ゲイトコレクターは,カムストップ・リンクバー・内外旋制御バーにより足関節を矢状面・前額面・水平面の3軸をコントロールできる。距腿関節だけでなく,遠位脛腓関節で腓骨を前方・拳上・外旋させ足部を回内位にし,足関節の背屈をより促すのではないかと考える。それらの動きに伴い,距骨下関節(以下ST関節)回内位での接地が可能となる。立脚初期でのST関節回内位での接地は,運動連鎖により骨盤の前方回旋と後傾が起きる。 昨年度の報告では,EMGの結果よりGC歩行と比較して従来のSLB歩行では全般的に高い筋活動が認められGC歩行では,明らかに筋活動が減少した。以上より,GCを用いた歩行では,従来のSLBを用いた歩行と比較して,過剰な筋活動が抑えられ,エネルギーの高効率化に基づいた歩行が可能であることを推察した。今回は,歩行周期後半の過剰な筋活動の抑制に焦点を当て,測定を行った。結果は,3例とも歩行周期後半に筋活動が弱まったのは,大殿筋のみであり,他の被検筋では,著しい傾向は認められなかった。これは前述したように,足関節の運動連鎖により歩行前半に骨盤前方回旋筋群が優位に働き,体重支持が十分行われることにより,歩行後半に股関節周囲の筋群が弛緩するのではないかと推察した。【理学療法学研究としての意義】 GCを使用することで歩行周期後半における過剰な筋活動の抑制に貢献できることを主として大殿筋において示せた。従来広く用いられてきたSLBと比較して異なる筋活動を示すことをEMGにて定量的に確認できた。足関節の内反尖足に対して従来の短下肢装具だけでなく,客観的な事象に基づいた選択肢をもつことは,患児のリハビリテーションにおいて有益な報告である。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101474-48101474, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680551515520
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- NII論文ID
- 130004585703
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可