運動戦略を他者へ教授することによる即時的な運動学習効果

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抄録

【はじめに,目的】「教うるは学ぶの半ば」ということわざがあるように,一般的に他者に対して学習した内容を教えることは,“教えた側”の理解が深まり,学習が促進されると考えられている。教育現場では座学において,この考えに則った「ティーチング学習法」という手法が存在する。我々は動作を獲得する際にも,運動スキルを他者に教授することが有益となるかもしれないと考えた。運動スキルを他者に教授することは,自身の動きを省みて理想の動きを想起するといった,運動イメージ介入としての効果が期待される(Suwa, 2008, 2009, Pulvermuller, 2005)。本研究では,運動スキルを他者に教授することの運動学習への即時効果を明らかにすることを目的とした。さらに,運動スキルを教授する他者(聞き役)との親密性が教授の効果と関連するかを明らかにすることについても併せて検討した。【方法】参加者は若年成人24名(平均年齢20.8歳)であり,ランダムに2群に割り付けられた(教授群12名,コントロール群12名)。運動学習課題は,直径5cmの2つの球を非利き手で回す課題とした。教授群は3分間球回しを練習した後,1分間の球回し回数と落下回数が計測された。この計測後,教授群はあらかじめ定められた聞き手役に対して「どのように球回しを行ったか」について教授した。教授直後,2分後の球回し回数と落下回数を測定した。また聞き役との親密度に関して「教授役にとって聞き役は,自身の話していることを聞き入れてくれるか」について7件法で測定した。一方,コントロール群は教授群と同様の課題を実施するが,教授群が聞き手役に教授している間は科学雑誌を音読した。分析は,球回し回数と落下回数について,2要因の分散分析(教授の有無×セッション)を行った。なお,有意水準は全て5%とした。【結果】球回し回数においては,教授群は教授を行うことによって,直後,2分後ともに有意に改善した(p<.01)。また,聞き手は自身の話していることを聞き入れるかについての評定と球回し回数に有意な正の相関を認めた(p<.05)。一方,コントロール群にはこの傾向は認めなかった。落下回数については両群ともに効果を認めなった。【結論】本研究の結果から,他者に運動スキルを教授することは,球回し回数に表される速さ(円滑性)に対して効果的であることが示された。教授をする際,自身の球回し運動の経験を振り返る必要があるため(Suwa, 2008, 2009),自身の運動イメージの想起につながり,効果をもたらしたと推察した。また,教授の効果と聞き入れの評定との相関については,教授する者にとって「話を聞き入れてくれる」と考える他者へ教授する場合,どのように伝わるかといった他者理解を促し,その効果を高めると考えた。本研究は,リハビリテーション対象者が得た運動スキルを,親密度の高い家族等に話すといった行為自体が,その運動の更なる学習につながる可能性を示している。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551609600
  • NII論文ID
    130005417416
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0415
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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