肛門内圧は姿勢によって変化する 骨盤底機能の矢状面での検討

  • 槌野 正裕
    大腸肛門病センター 高野病院 リハビリテーション科
  • 荒川 広宣
    大腸肛門病センター 高野病院 リハビリテーション科
  • 小林 道弘
    大腸肛門病センター 高野病院 リハビリテーション科
  • 中島 みどり
    大腸肛門病センター 高野病院 検査科
  • 山下 佳代
    大腸肛門病センター 高野病院 検査科
  • 辻 順行
    大腸肛門病センター 高野病院 外科
  • 山田 一隆
    大腸肛門病センター 高野病院 外科
  • 高野 正博
    大腸肛門病センター 高野病院 外科

説明

【背景】排泄は、生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求の一つである。近年、排泄障害に関する研究が進み、排泄障害における骨盤底機能障害の関与が示唆されている。我々は、大腸肛門病の専門病院として、排便障害に対しての直腸肛門機能検査や機能訓練を積極的に行っている。第42 回当学術大会では、「排便障害における骨盤底機能と姿勢に関する研究」で、腰椎前彎角度の減少は会陰部の下垂や肛門内圧を低下させ、姿勢と骨盤底機能の関連を示し、その後も継続して治療にあたっている。便失禁症例は、漏出性便失禁、切迫性便失禁、漏出切迫性便失禁の3 つに分類され、切迫性便失禁を主訴として来院する症例の中には、直腸肛門機能障害に対するバイオフィードバック療法だけでは効果が期待できないことがあり、そのような症例に対しては、骨盤を含めたアライメントを考慮したアプローチを行っている。今回、姿勢を変えることが肛門内圧にどのような変化をもたらすのかを検討し、訓練に応用することを目的として前向きに以下の研究を行ったので報告する。【対象と方法】脊椎や骨盤、股関節に運動器疾患の既往が無い40 〜60 歳代の女性で、肛門内圧検査の指示があった女性9 例(平均年齢59.0 ± 6.9 歳)を対象とした。方法は、肛門内圧検査キット(スターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS−200)を用いて肛門内圧検査を行う際に、通常用いられているシムス体位(左下側臥位で、左下肢軽度屈曲、右下肢屈曲の姿勢)ではなく、(A)体幹を前屈させた骨盤後傾位(可能な限り丸くなって両膝を両上肢で抱え込んだ姿勢)、(B)体幹を伸展させた骨盤前傾位(ストレッチポールを抱いてまっすぐになった姿勢)の2 つの写真を提示し、この姿勢をとってもらった。検査は医師の指示に基づき検査技師が行い、意識して肛門をしめた際の肛門随意圧(随意圧)から安静時肛門内圧(静止圧)を引いた随意収縮圧の値の変化を求め比較検討した。なお、当院で用いている肛門内圧検査値は水柱圧(単位:cmH2O)で現してある。【説明と同意】臨床研究計画書を作成し、当院倫理委員会の許可を得て研究に取り組んだ。【結果】全ての対象者で、静止圧は(B)体幹を伸展させた骨盤前傾位(平均値66.0 ± 28.0 cmH2O)の方が、(A)体幹を前屈させた骨盤後傾位(平均値49.1 ± 23.2 cmH2O)よりも圧が高かった(Wilcoxon ‐T検定p<0.01)。また、随意収縮圧では、1 例を除いて静止圧と同様に(B)(平均値97.4 ± 58.0 cmH2O)の方が、(A)(平均値87.0 ± 53.8 cmH2O)よりも随意収縮圧が高かった(Wilcoxon ‐T検定p<0.05)。静止圧も随意収縮圧も(B)は(A)に対して正の相関(相関係数0.882、0.972、p<0.001)関係であった。【考察】今回、姿勢の違いが肛門内圧にどのような変化をもたらすのかを検討した。骨盤は前傾位の方が後傾位よりも肛門の緊張が高まり、随意収縮も行いやすいことが示唆された。この理由としては、骨盤後傾では骨盤下口が広がるため、骨盤底の緊張が低下することが考えられる。また、骨盤前傾位では仙骨が起き上がり、腹骨盤内の臓器を支持し、排尿や排便の禁制を維持するとされる肛門挙筋の緊張が高まったと考えられる。ただし、今回は矢状面のみの検討であるため、今後は、水平面での股関節回旋の違いや前額面での内外転の違いによる変化などを検討していくことが必要であると考える。直腸肛門機能の改善を目的とした治療には、内圧計や筋電図を用いたバイオフィードバック療法が行われているが、今回の研究から治療では姿勢にも目を向け、骨盤底筋群への効果的なアプローチを確立していくことが重要であると考えられる。当院では、切迫性便失禁を主訴とする症例に対して、まず、骨盤の前後傾運動を誘導し、肛門挙筋に適度な緊張を保たせながら外肛門括約筋の収縮を促しやすいように骨盤を軽度前傾させた状態で治療にあたる。持続的に収縮が出来るようになったら、段階的に骨盤を後傾した状態での訓練や片脚下肢の拳上により腹圧を上昇させた状態でも外肛門括約筋の収縮が可能であるかを評価する。最後は起居動作から、起立、歩行と日常生活での実際の場面を想定してトイレまで我慢して移動できるような機能の獲得に取り組んでいる。【理学療法学研究としての意義】排泄障害を含めた骨盤底機能障害に対する理学療法士の関与は乏しい現状であるが、効果的な機能訓練を行うためには医師や看護師のみではなく、運動療法の専門職である理学療法士が積極的に治療に参加することで、より質の高い治療を提供できると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101557-48101557, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551785600
  • NII論文ID
    130004585766
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101557.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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