インフォーマル・エデュケーションとしてのボランティア実習

DOI
  • 吉井 智晴
    東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻

抄録

【はじめに、目的】理学療法士教育の課題として、社会教育、コミュニケーション教育がある。臨床実習では、知識不足よりも社会常識の不足や患者や指導者とのコミュニケーションが問題で実習の継続が困難になるケースが減らない。本学では、建学の精神として「人にやさしく、地域に貢献できる人材の育成」を念頭に、ボランティア実習を必須科目とした。ボランティアを単位に組み込むことについては賛否両論あるが、専門教育の前に、人として地域社会との関わりが重要であり、教育として実施する意義は大きいと考えている。そこで本研究では、ボランティア実習後の学生がボランティアにどのような認識を持ち、その効果をどのように感じているかを調査した。【方法】2012年度入学生リハビリテーション学科理学療法学専攻76名、作業療法学学生19名の合計95名のうち、実習をすべて終了したもの94名。本学は1学科2専攻の構成のため、本授業については、理学療法学専攻教員1名が授業担当となり、両専攻学生が一緒に授業を実施している。学習目標は1)自分でボランティア活動実施計画を立てる2)他者との積極的なコミュニケーションを図るとし、授業構成は、実習科目扱いで45時間を1単位とした。本学所在地の社会福祉協議会の協力のもと、施設のボランティア内容や受け入れ条件をまとめたリストを作成し、学生はそこから各自のボランティア活動計画を立て、交渉も自ら行った。目標達成のためには、一定期間同施設に通い、関係作りを行うのが望ましいと考え、原則毎週月曜午後をボランティア実習として時間割に組み込んだ。したがって、学生は半日4時間×11回、約3か月間実習の実習となった。実習終了後1週間以内にレポートを提出させた。ボランティア実習を終了して考えたことを5つのキーワードを自由に設定して、各300字程度合計1500字程度の分量を条件とした。今回の調査はそのレポートを使用し、キーワードと内容の乖離がないことを確認したうえで、キーワードをカテゴリー化し分析した。【倫理的配慮、説明と同意】学生には、レポート提出後そのデータを分析し学会報告に使用する旨を説明し、同意を得た。【結果】分析対象は、5×94名分で457キーワードであり、10のカテゴリーに分類できた。更にカテゴリーの関連を検討すると大きく3つのカテゴリーに分類できた。他者とかかわること、高齢者と自分の違い等の「対象者への視点」をあげたものが49.5%、身に付いたこと、今後の自分の課題等の「自己への視点」が37.0%、職員から学んだこと、地域での施設の役割等の「職員や制度への視点」が13.5%であった。それらのカテゴリーについては、ボランティア先の施設種別での差はなかった。【考察】ボランティア実習により、「自己」と「他者」を強く認識したものが多く見られた。その傾向は対象者が、幼児、児童、高齢者でも可能で、自分との相違点、類似点をどちらも素直に受け入れることが出来ていた。また、自己については、自分の性格や、行動特性について振り返ることができ、今後の課題とすることが出来ていた。更に、施設で働く職員との関わりからは、職種に関係なく、「社会で働く先輩として」のロールモデルとして理解すること、実践現場から社会制度を考えることが出来ていた。1年前期という入学直後という時期に、地域社会に学生を送り出すリスクを心配していたが、実習の趣旨を理解していただき、地域社会の関わりの中で多くの方に指導いただいたことは大きな成果があったと考えられる。近年、学生の学習態度が受け身であるといわれているが、今回の実習のように場の設定をすれば、学生はその体験の中で学ぶ力を持つことができると考える。【理学療法学研究としての意義】本報告結果は、学校教育(フォーマル・エデュケーション)だけでなく、地域社会での学生教育方法の1つとしてのインフォーマル・エデュケーションの1例であり、学生の成長を促しながら、地域社会を認識する有効な機会となったことを示した。今後はその実践結果や効果について検討することにより、理学療法教育に寄与できるものと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101637-48101637, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551834368
  • NII論文ID
    130004585825
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101637.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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