骨上筋群に対するVitalStim治療とShaker訓練の併用治療は脳卒中後嚥下障害患者の嚥下機能を改善させるのか?

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抄録

【はじめに、目的】 脳卒中後嚥下障害に対する有効な治療法として,経皮的電気刺激であるVitalStim(VS)が注目されている.VSは,アイスマッサージや冷感覚刺激法,および通常嚥下治療よりも嚥下機能を改善させたと報告されているが,喉頭挙上再建を目的とした場合,舌骨下筋群への電気刺激は,舌骨および甲状軟骨を下制させるとして,電極貼付位置については疑問が投げかけられている.  また,伝統的に嚥下障害患者の嚥下筋を強化する運動療法としてShaker 訓練がある.Mepaniら(2011)によると,SEは舌骨上筋群だけではなく,舌骨下筋群の深部に存在する甲状舌骨筋が機能回復することを報告している.そこで,舌骨上筋のみに対するVS治療とShaker訓練(以下:SE)の併用治療(CT)を考案した.本研究の目的はCTが嚥下機能に及ぼす影響を調査することとした.【方法】 対象は,脳卒中後嚥下障害患者21名である.本研究デザインは,他施設臨床比較試験とし,SE群(10名)とCT群(11名)に割り付けた.SE群はShakerらの方法に準じ,頸部の屈曲伸展運動を行い,CT群はSEにVSを併用した.電気刺激にはIntelect VitalStim(Chattanooga社)を用いた.刺激部位は舌骨上縁から2cm上縁,および正中から2cm外側とし,顎舌骨筋と顎二腹筋前腹部を標的とした.刺激パラメーターは,対称性ニ相性矩形波,パルス幅300μsec,周波数80Hzとした.刺激休止期間は55秒刺激,1秒休止とした.電流強度は筋収縮レベルとし,痛みがなく,患者が耐えうる最大の電流強度(約12mA)とした.頭部挙上の保持時間や回数については,SE群,CT群ともに担当セラピストが参加者の耐久性にあわせて調整した. 介入時間は,SE群,CT群ともに30分程度とした.また,各群に通常嚥下訓練を30分程度追加し,合計60分とした.介入期間は,週5回,4週間とした.測定は介入前後に行い,評価項目はスクリーニングテストと嚥下造影とした.スクリーニングテストはThe Mann Assessment of Swallowing Ability(MASA),Functional Oral Intake Scale(FOIS)を用いた.また,嚥下造影(VF)を実施し,嚥下時の舌骨移動距離(前方移動距離,挙上距離)を測定した. 統計学的分析には,二元配置分散分析とPost-hoc検定を行い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に従い実施した.全症例にはVS,およびSEの治療効果と副作用を含む本研究の主旨を十分に説明し,自由意思にて同意を得た.【結果】 介入前の各要因について,2群間に有意な差は認められなかった.二元配置分散分析にて,FOIS,MASAは時間による主効果(FOIS:F=6.43,P=0.016;MASA:F=5.39,P=0.027)があり,舌骨挙上距離では,時間と群による主効果(時間:F=8.42,P=0.007;群:F=4.42,P=0.044)と相互作用(F=11.67,P=0.002)が認められた.Post-hoc検定にて,FOISは,CT群のみに介入後で有意に改善(P=0.022)していた.介入後の舌骨挙上距離では,SE群と比較してCT群が有意に大きかった(P=0.002).なお,すべての対象者は有害事象なく本研究を完了した.【考察】 介入後の舌骨挙上距離は,SE群と比較してCT群が有意に増加していた.廃用後筋力が低下した患者を対象とした骨格筋への電気刺激は,生理的訓練法単独よりも回復が迅速化され,より強い筋力増強効果が得られることが数多く報告されている.SEの原法では,実施期間が6週間と非常に長く,3回/日実施しなければならないことから国内への臨床導入には難しい印象があるが,本研究のCT介入は4週間,1回/日であったため,舌骨上筋群の筋力増強効果については,SEにVSを追加することで短期化が期待できる. また,CT群のみに,介入前後でFOISに有意な改善が認められた.これは,Xiaら(2012)の先行研究と一致しており,脳卒中後嚥下障害患者に対してVSのみではなく,伝統的嚥下治療を併用するCT治療が有効であることを支持している.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,嚥下障害に対してエビデンスが高いとされているSEにVSを併用した新しい治療法であり,短期間で舌骨拳上距離を改善させることが可能である.また,CTはFOISを向上させることから,運動療法と電気刺激の併用が嚥下機能を改善させる可能性があり,嚥下障害は理学療法の対象となりうることを明らかにしたとして意義深いと考える.本研究は平成23年度物理療法学会助成を受けた研究である.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101659-48101659, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551883648
  • NII論文ID
    130004585843
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101659.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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