ラットにおけるトレッドミル運動が肺組織に及ぼす影響

DOI
  • 亀田 光宏
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 IMS(イムス)グループ 春日部中央総合病院 リハビリテーション科
  • 金村 尚彦
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学 理学療法学科
  • 国分 貴徳
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学 理学療法学科
  • 村田 健児
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科
  • 森 雅幸
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科
  • 森下 佑里
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科
  • 松本 純一
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 IMS(イムス)グループ 春日部中央総合病院 リハビリテーション科
  • 高柳 清美
    埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学 理学療法学科

抄録

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療法は確立されておらず,運動療法の介入が重要である。一般に,COPDの病態は肺組織中の炎症メディエーターであるInterferon-gamma(IFN-γ)やtumor necrosis factor-α(TNF-α),Interleukin-6(IL6)などのサイトカインに誘導され,caspase-3のような細胞死関連物質の増加によって肺組織のアポトーシスを引き起こすことで肺胞腔の拡大が観察される。これらのメディエーターを標的とした薬物療法の研究では,caspase-3を抑制することで肺胞腔の拡大を防止し,アポトーシスを予防できることが報告された。また,肺組織のリモデリング機構として,血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が重要であり,そのレセプターであるvascular endothelial growth factor receptor-2(VEGFR-2)を遺伝子ノックアウトした場合,肺組織にアポトーシス増加を引き起こし,肺胞腔が拡大すると報告された。一方,近年は有酸素運動によって抗酸化作用や抗炎症作用を有することが報告されており,運動が糖尿病や末梢動脈疾患に有効であることが報告されている。しかし,肺組織における運動療法の効果は検証が乏しく,mRNAレベルでの生体反応は検証されていない。そこで本研究目的は,一定の条件下でトレッドミル運動の有無がラット肺組織におけるVEGFR-2・TNF-α・caspase-3の活性を生化学的に比較検討することである。【方法】対象は,11週齢のWistar系雄性ラット10匹。運動群(Exercise:EX)と非運動群(Control:CON)の2群に分けた。EX群は,12週齢よりラット用トレッドミルを用いて,傾斜0°,15m/min,30minの運動強度で4週間(週5日)実施した。CON群は,同期間ケージ内で通常飼育した。運動期間終了後に右肺中葉を採取し-80℃で凍結保存した。すべてのサンプル採取後,RNeasy Fibrous Tissue Mini Kitに従い,Total RNAを抽出した。採取されたTotal RNAを1μg含むcDNAをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用いて作成した。mRNAの発現量はリアルタイムPCR法を用いて,ターゲット遺伝子VEGFVEGFR-2TNF-αcaspase-3を定量化した。尚,内在性因子Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenaseGAPDH)を用いて,ΔΔCT法を利用し相対値を算出した。統計解析はCT値に対しStudent t-testを用いた。【結果】VEGFR-2はCON群を基準とし,EX群で1.15倍増加し有意差を示した(p<0.01)。TNF-αはCON群を基準とし,EX群で7.12倍増加し有意差を示した(p<0.01)。caspase-3はCON群群を基準とし,EX群で1.23倍増加し有意差を示した(p<0.01)【考察】先行研究では6-8週齢マウスに対しトレッドミル運動(傾斜10°・24m/min・60min)施行により肺組織内VEGFR-2が有意に増加,また,10週齢ラットに対しトレッドミル走行(傾斜15°・26m/min・30min)施行によりTNF-αが有意に減少すると報告がある。先行研究と比較し本研究は運動強度が低いが,VEGFR-2の発現に関して同様な結果であり,TNF-αでは相違した。VEGFR-2は血管内皮細胞の増殖や抗アポトーシス作用のシグナルを担う。つまり,本研究に関してはトレッドミル運動が肺組織で良い効果を示す。TNF-αは半減期が20分以下と短く3~4時間後には検出されなくなる。運動強度に関わらず短期的には炎症反応は亢進するので運動直後による急性炎症と推察する。アポトーシスはTNF-αに誘引され,生理的反応としては正常組織の再生を引き起こす。反対にアポトーシスはVEGFにより抑制されるため,TNF-αとVEGFの作用は相反する。今回の結果からは,トレッドミル走行が肺組織に炎症反応やアポトーシスにどう影響を及ぼすか定かでない。結論として,トレッドミル運動は肺組織にVEGFR-2増加は確かである。つまり,先行研究より運動が肺組織に肺胞腔の拡大を抑制し肺組織の修復を促す可能性が示唆される。しかし,本研究ではトレッドミル運動が炎症反応増加やアポトーシス増加など先行研究と相違する点から,今後は運動強度・時間・頻度など再検討を要する。また,組織学的手法と生化学的手法を併用し比較をしていく。【理学療法学研究としての意義】運動療法が肺組織に対し肺胞腔の拡大防止・肺胞修復効果が認められれば,呼吸理学療法における運動療法の新たなエビデンスとなり,肺組織に対する理学療法展開が期待できる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551903360
  • NII論文ID
    130005416763
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1769
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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