補高による脚長差歩行時の股関節周囲筋活動に関する一考察

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  • 表面筋電図を用いた検討

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【はじめに,目的】臨床上,大腿骨骨幹部骨折後や変形性股関節症などで脚長差のある症例を経験した。これらの症例で,骨盤傾斜や腰椎側彎などアライメント変化のほか,両股関節に可動域狭小や周囲筋の出力低下,疼痛がみられた。健常人に脚長差を形成した基礎研究では,中村ら(2003)は外観的な異常,寺本ら(1994)は静的アライメント,神先ら(1993)は歩行中の重心移動,角島ら(2003)らは腰椎側彎について,脚長差3cmまでは身体各部の代償により差はみられないとしている。一方,脚長差歩行時のhip strategyの一環としての股関節周囲筋活動量に着目し,定量的な評価を試みた研究は少ない。しかしこのことは補高による介入効果や手術前後の歩容変化などの評価において重要と考え,本研究の目的とした。【方法】骨関節系の病歴がなく,脚長差(5cm以内は誤差範囲)のない健常男性10名(22.6±4.58歳,身長174.05±7.83cm,体重72.5±11.23kg)を対象とした。被験者の左側に補高(1~4cm:1cm刻み)を施し,10m歩行を行い,表面筋電図によって股関節周囲筋活動量を測定した。補高は,歩行時の沈み込みや踏み返しの困難さを避けるため,実用されている補高材(ウレタン系EVAゴム)を日常的に履いている靴の底に貼付して行った。筋電図は(Mediarea-Support EMGマスターWireless Km-818MT)を用いた。被験筋は,総合的な股関節機能と相関があり,骨盤の側方安定に関与し,跛行の主な原因とされる外転筋群(中殿筋,大腿筋膜張筋,大殿筋上部線維),及び拮抗関係にある長内転筋を選択した。神先ら(1993)は,歩行の速度因子は脚長差の影響を受ける可能性が少ないとしているため,歩行スピードは自由とした。感圧センサーを両側の踵と爪先部に装着し,立脚期を特定した。ノイズなどの不良のない最初の試行回の3番目の歩行周期のデータを採用した。解析は,補高なし(以下0cm)から補高4cmまでの5条件の各筋活動量について,全波整流化後,1/8秒ごとの積分値(EMG)を用い,peak値を測定値とした。0cm歩行時を1とし,1~4cm補高時それぞれの筋活動量を%IEMGとして正規化して比較,どの補高で各筋活動量に有意差が生じるか解析した。また補高によって筋活動がpeakを迎えるタイミングが変化するか,立脚期に費やした時間を1コマあたり1/8秒で分割,そのうちpeak値が何コマ目にあたるかを割合として正規化して比較した。統計処理は,正規性が見られなかったため,ノンパラメトリック多重比較検定Steel-Dwass法を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】国際医療福祉大学倫理審査承認(承認番号12-123)後,ヘルシンキ宣言に則り,文面及び口頭で調査の趣旨,個人情報保護について説明,同意を得て開始した。【結果】0cmの場合と比較し,補高側では,中殿筋,大腿筋膜張筋で4cm,大殿筋上部線維で2cm以降で有意な筋活動量の増加が認められた。長内転筋では有意差は認められなかった。非補高側では,中殿筋及び大殿筋上部線維で1cm以降の補高で有意に筋活動量の増加が認められた。大腿筋膜張筋と長内転筋では有意差は認められなかった。また各筋でpeak値を迎えるタイミングに変化はみられなかった。【考察】Götz-Neumann(2010)によれば,下肢の有効長が短縮・延長した場合,延長側のtoe clearanceを確保するための逸脱運動として,延長側の骨盤引き上げ,短縮側股関節の過度の外転が見られるとしている。補高による脚長差が出現することで,延長側(以下補高側)の外転筋群は,立脚初期に,短縮側(以下非補高側)の引き上げのため,外転モーメントの増加のため求心性に働き,立脚後期では,非補高側の接地までに通常よりも大きな内転モーメントが生じ,遠心性に働くことで活動量が増加すると考えた。これに伴い拮抗関係にある長内転筋においてもstability確保のため活動量増加が認められると考えた。また非補高側においても,股関節の過剰な外転が要求され,活動量が増加すると考えた。そして先行研究におけるcut off値である3cmまでは有意差が認められないと予測した。結果,補高側では,先行研究の知見と同様,3cmまでは有意差が見られず,4cmで外転筋全てで有意差が見られた。非補高側では,1cmの段階で,中殿筋と大殿筋上部線維に有意差が認められた。これらのことから,非補高側では脚長差3cm未満であっても活動量が増加し,同側の負担が相対的に大きい可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】基礎研究として,脚長差が発生した場合の股関節周囲筋活動量の変化に着目し,定量的な評価を試みた研究は少ないが,補高の介入効果や手術前後の歩容変化などを予測する上で重要な事項と考える。

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