足趾把持力発揮時の運動学的分析

DOI
  • 相馬 正之
    東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科
  • 村田 伸
    京都橘大学健康科学部理学療法学科
  • 甲斐 義浩
    京都橘大学健康科学部理学療法学科
  • 中江 秀幸
    東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科
  • 佐藤 洋介
    東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科
  • 村田 潤
    長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科保健学専攻
  • 宮崎 純弥
    京都橘大学健康科学部理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • 下肢筋活動と足関節の運動分析

抄録

【はじめに,目的】足趾把持力は,上肢における握力に相当するものとされ,短母指屈筋,長母指屈筋,虫様筋,短指屈筋,長指屈筋の作用により起こる複合運動と定義されている。足趾把持力は高齢者の転倒リスク要因として注目され,数多くの報告がある。足部は,多数の骨が複雑に連結して構成され,アーチ構造をもつのが特徴である。足趾把持力発揮時には,踵部を支点として足趾の屈曲を行うことから,アーチ構造を変化させ,足趾関節のみならず前足部や足関節が連鎖し作用する。これらのことから,足趾把持力発揮時のメカニズム解明のためには,発揮に伴う足部の変化を捉える必要があると考えられる。しかし,これまでの報告では,足趾把持力発揮時に生じる足部の動きを運動学的に分析したものはない。そこで本研究では,足関節に焦点を当て,把持力発揮時における足関節角度の変化と下腿筋の筋活動を明らかにし,足趾把持力との関係を検討した。【方法】対象は,健常成人女性11名(平均年齢20.2±0.4歳,身長159.3±4.1cm,体重51.6±5.0kg)であった。測定項目は,利き足の足趾把持力と足趾把持力発揮時の電気角度計から得られる足関節角度,表面筋電図(EMG)から得られる大腿直筋と大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭の筋活動量とし,それぞれを同期させ測定した。足趾把持力の測定は,足趾把持力測定器を用いた。また,足趾把持力動作時の足関節角度を測定するため,電気角度計を下腿内側の中央線および足底面への平行線に添付した。表面筋電図の測定には表面筋電計を用い,サンプリング周波数は1000Hzとし,最大足把持力発揮時の筋活動および最大随意等尺性収縮(MVC)を測定した。筋電信号の導出には,解析ソフトを用い,20-500Hzの帯域通過フィルターを適応した。導出された筋電信号は,全波整流処理を行ったのち,最大足趾把持力発揮3秒間の中間1秒間の積分筋電(IEMG)を求めた。得られたIEMGは,各筋のMVCの値を基準に正規化を行った。統計処理は,足趾把持力と足関節角度および足趾把持力発揮時の各筋の%IEMGの関係については,ピアソンの積率相関係数を用い,危険率5%未満を有意差ありと判断した。【結果】得られた測定値は,足趾把持力が15.9±4.3kg,足関節背屈角度が3.1±2.1°であった。また,%IEMGは,大腿四頭筋が3.2±1.7%,大腿二頭筋が34.3±20%,前脛骨筋が35.4±20.2%,腓腹筋内側頭が51.5±20%であった。足趾把持力と足趾把持力発揮時の足関節角度変化の変数で求めたピアソンの相関係数では,r=0.61(p<0.05)と有意な正相関が認められた。また,足趾把持力と足趾把持力発揮時の各筋肉の%IEMGの変数で求めたピアソンの相関係数では,前脛骨筋と足趾把持力の間にr=0.75(p<0.05),腓腹筋内側頭と足趾把持力の間にr=0.72(p<0.05)とそれぞれに有意な正相関が認められたが,大腿四頭筋および大腿二頭筋では有意な関係が認められなかった。【考察】本結果から,足趾把持力発揮時に足関節は,中間位から背屈方向に平均3度とわずかな変化であったが,その角度と足趾把持力との間に正相関が認められた。すなわち,背屈角度が大きいほど足趾把持力が強いことが示された。足関節は下腿関節面が凹型の形状を持つため,中間位から背屈時では足関節が楔としてはまり込み,安定性が得られる。そのため,足関節が背屈位にあるほど,最大足趾把持力発揮には効果的であると考えられる。また,足趾屈曲に伴い,生じる足関節背屈角度には,足趾を含めた前足部を大きく屈曲させる柔軟性が要求される。村田らは,足部柔軟性が高いほど強い足趾把持力を発揮できることを明らかにしていることから,本結果で得られた足関節が背屈位にあるほど,強い足趾把持力が発揮できるという知見は矛盾しない。また,下肢筋の筋活動量では,足趾把持力発揮時の前脛骨筋,腓腹筋内側頭の%IEMGと足趾把持力との間に有意な正相関が認められた。これらのことから,強い足趾把持力を発揮するためには,足関節を背屈させ,足関節固定のため下腿筋群が同時性収縮を行う必要があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されている。しかし,これまで,足趾把持力発揮のメカニズムについては明らかにされていなかった。本研究から足趾把持力発揮には,足趾把持に関与する筋肉のみならず,足部の動き,下腿の同時収縮も重要になることが示された。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551986688
  • NII論文ID
    130005248628
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1007
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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