延髄外側梗塞患者における自覚的視性垂直位とバランス能力および歩行能力の関連

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抄録

【はじめに,目的】延髄外側梗塞患者において,特徴的な所見のひとつにlateropulsionがある。lateropulsionは,自覚的視性垂直位(以下,SVV)との関連が指摘され,lateropulsionが重症であるほどSVVが大きくなることが報告されている(Dieterich et al,1992)。しかしながら,これまで延髄外側梗塞患者における,SVVと動作能力との関連性は検討されておらず,lateropulsionによりどのような動作能力が障害されるのかは明らかとなっていない。そこで本研究では,SVVとバランス能力および歩行能力の関連性を検討することとした。【方法】対象は,回復期病棟に入院した初発の延髄外側梗塞患者10名(平均年齢55.5±12.5歳,発症後期間75.7±53.7日,右病変:5名,左病変:5名)とした。Brunnstrom stageは上下肢とも全例VIであり,運動麻痺は認められなかった。評価項目は,SVV,静止立位バランス,歩行の非対称性とした。SVVは,椅座位で測定した。対象の顔より約25cm前方に液晶モニターを設置し,周辺視野を遮断するために,直径25cm×高さ25cmの円筒でモニターの表面を覆った。モニターに左右に傾斜した線分を交互に表示し,検者がキーボード操作で回転させ,対象者には垂直位となった時点で合図させた。角度は重力方向との誤差角度をデジタル測定し,病巣側に偏位した値を正の値とした。計8回の測定を行い,各測定値の平均(以下,符号付きSVV度)および,その絶対値の平均(以下,絶対値SVV度)を求め,計8回の平均値±標準偏差を採用した。静止立位バランスは,重心動揺計(ANIMA社製キネトグラビコーダG-7100TR)を用いて測定し,総軌跡長,矩形面積,実効値面積を評価した。測定姿勢は,開眼条件での基本的立位姿勢とし,測定時間は30秒とした。計3回測定し,平均値を算出した。歩行の非対称性は,小型加速度計(ワイヤレステクノロジー社)を用いて体幹加速度から評価した。課題は,杖などの歩行補助具を使用しない至適速度での10m歩行とし,対象者の第三腰椎部に小型無線加速度計を装着し,測定を5回行った。前後の体幹加速度をそれぞれ2度積分し重心移動距離を算出した。算出した値から自己相関分析を行い,左右の非対称性を評価した。自己相関分析では数値が小さいほど非対称であるといえる。統計解析は,絶対値SVV度と静止立位バランスおよび歩行の非対称性との関係をSpearmanの順位相関係数用いて検討した,有意水準は5%とした。【結果】全対象の符号付きSVV度は6.15±9.05°,絶対値SVV度は8.99±6.24°であった。対象10名のうちSVVが病巣と同側へ偏位したのが7名,対側へ偏位したのが3名であった。絶対値SVV度と各評価項目の関連性については,重心動揺の指標としてSVVは,総軌跡長(r=0.44,p=0.20),矩形面積(r=0.42,p=0.23),実効値面積(r=0.39,p=0.26)といずれも有意な関連を認めなかった。歩行における非対称性は,絶対値SVV度と有意な負の相関関係を認めた(r=-0.64,p=0.03)。【考察】本研究の結果より,延髄外側梗塞患者のSVVが偏位していることが示唆され,その偏位の程度が歩行の非対称性と関連することがわかった。一方で,SVVが偏位の程度は,静止立位バランスとは関連せず,静止立位においてSVVが偏位していてもなんらかの代償機構により動揺の制御が可能であったことが推察された。すなわち,動的な動作においてSVVの障害がはじめて動作に影響すると考えられた。今後の課題としては,縦断的な検討により,SVVの回復に伴い歩行の非対称性がどのように変化するのかを明らかにし,理学療法介入の一助としていくことが挙げられる。【理学療法学研究としての意義】延髄外側梗塞患者におけるSVVの偏位は歩行の非対称との関連が強いことを明らかにした点で意義がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552117632
  • NII論文ID
    130005248797
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1116
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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